千里の道も一歩から | ナノ


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 季節も移ろい、梅雨に入ろうと言うこの時期。
 俺の通う学校の三大イベントの内一つがやって来た。まあ説明するのも面倒だから手短に言うと、合宿だ。この前先輩が言っていた合同合宿。合宿と言っても勉強とか部活とか全く関係ないただのお遊び。まあキャンプに近いのかもしれない。学年の垣根を越え、皆で仲良く親睦を深めよう的なのが目的らしい。正直去年の散々なイメージしかないからげんなりだ。チサ先輩は楽しんでもらいたいと言っていたけど、どうなのかね。
 そして今現在俺は、生徒で溢れ返る掲示板の前に来ていた。

「……帰っていい?」
「駄目だ。この後集まりがあるんだぞ。今見ないで、後で困るのはお前だからな」

 言い返せない程の正論を言われ、俺は渋々溢れ返る人ごみの中に突っ込んでいった。見たなら早く散ればいいのに、此処のやつ等と来たら、誰々と同じ班だとか何とかその場で話を始めるから全然人の波がひかない。くそ、後少し前に行きたい!
 そして何とか友人と共に表が見える所まで来た俺達は、その表をマジマジと見つめる。が、俺達と同じような境遇の人達が沢山いる為、さっさと自分の名前と班だけを見つけ、俺は人ごみから抜け出た。友人も同じような考えだったのか、俺のすぐ後に出て来た。

「どうだった?見つけられた?」
「ん?ああ。俺浅木だから、最初の方見れば直ぐ名前あるし」
「羨ましいわ。まあ俺も見つけられたけど」
「何だった?」
「G-2」
「俺B-3」
「あー、今年はどんな奴らと班になるかねぇ」

 それはこの後の集まりで分かるのだが、まあ不安になる気持ちは分かる。だって垣根を越えてとか言うけど、やっぱり先輩後輩な関係であって、無礼講とはいかない訳だよ。気、遣うんだよなぁ。特に二年生なんて間に挟まれてるし。何となく居辛い。

「まあ今年は捕まんないといいな」
「それな。去年みたく部長に付き回されたら堪ったもんじゃないね」

 あっちだ!こっちだ!と引っ張り回され、アシスタントをさせられた俺は、本当に良い思い出がない。あるとすれば同じ班の子が作ったカレーが美味かったと言う事だけだ。まあチサ先輩に言った通り、俺が逃げ回ればいいだけの話だしな。山に行く機会なんてそうないし、何かネタになる様なものがあればいいな。





 やべー、遅れちった。珍しく先生の言う事聞いて、職員室に付き合ったらこれだよ。もう集まりの時間じゃん。とにかく急いでB-3が集まる教室に向かい、俺はその扉を開けた。案の定、俺以外のメンツはもう揃っているらしい。一斉にこっちを見た皆様に一声「遅れてすんません」と声を掛け、適当っぽいから適当に席についた。そして前を見て驚いた。教壇に立ってんの、風紀委員長じゃね?

「今回、この班の班長を務める甲斐だ。今から当日の行動や細かな事を決めていく。何か意見があったらすぐに言ってくれ」

 転入生でも居るのかと思って班員を見渡すが、特にそれと言った人物は見当たらない。転入生にお熱な甲斐先輩だったら、同じ班になるように自分でするかと思ってたけど、まあ事情はともあれ、先輩が班長だったら上手く纏まるだろう。現に曲者揃いの風紀委員を纏め上げてるんだし。
 にしても、何か女っぽい顔の班員が半分を占めている。だからかな、委員長を見る目がハートだ。でもその中の一人だけは、委員長をギッと目を吊り上げて睨んでいる。タイの色から先輩なのは分かった。つか何この班、やっぱ曰くありげじゃね?

「ではまず一日目の予定だが――」
「それよりも、まずこの部屋割りが納得いかないんだけど」

 とか思ってたら、予想を裏切らずその睨み付けていたヤツが委員長に食って掛かる。けど委員長は涼しい顔でその発言を聞いていた。

「何が納得いかないのか、理由を聞こうか」
「分かってるくせに……!僕と同じ班になるように仕向けたのはアンタでしょ!」
「分かっているなら態々言うな。最近のお前の行動は目に余る。俺が直々に監視するのは当然の流れだ。まさか、この期に及んで言い逃れはしないよな?尾上の親衛隊隊長さん」

 オノエの親衛隊?って、何?あれ、オノエってどっかで聞いたことあったような。誰だっけ。まあいいか。それより頼りの先輩が進行を放棄するのはどうかと思うんだよね。今日決まらなくて、次も決まらなくて、結局最後の最後まで残されましたって言うのは俺やだ。

「っ、大体アンタは!」
「あのー、その話は俺達の前でしなくちゃいけない話ですかぁ?」
「な、何アンタ……」
「個人的な話は当人同士でお願いしたいんですけど。与えられてる時間はそう多くないですし、さっさと決めません?」

 俺の言葉に、何故か教室がシンッと静まり返る。え、何。俺別に間違った事を言ったつもりはないんだけど。年下が口出しするなとか言う感じ?マジで?それじゃ俺やってけないんだけど。俺、先輩相手に気は遣うとは言ったけど、意見しないとは言ってないし。

「……浅木の言う通りだな。悪かった、早速決めて行こう」
「ふん……」

 良かった。俺の話を聞いてくれる人達で。若干不満げな人が一人いるけど。つか委員長が俺の名前を知っているのに驚いた。だって会ったの実際一回しかないし。憶えているとは思ってなかったから。まあ何にせよ、話し合いが進むなら何よりだよ。

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bkm