千里の道も一歩から | ナノ


7

「てな訳で、無事先輩に謝る事が出来ましたー」
「マジでか。マジであの記事見せた訳!?」
「まあ渾身の出来だったからな。新しく記事は書き直したけど」

 いやー、大変だった。先輩にあの記事を見せる為だけに書いたわけだけど、あの記事を提出する前に先輩図書室に現れたからね。見せる必要全くなかったんだけど、折角だから見せといた。そして代わりの記事を昨日徹夜で書き上げた訳だけど、いやいや、間に合ってよかった。
 因みにこうして態々友人に報告しているのは、こいつがあの記事の発案者だからだ。お前のファンだって言うなら、記事は見るだろ。そこで謝れば?との言葉に、俺がそれいいなと思い今回書き上げるまでに至った。まあ上手くいったから一応報告。

「うわー、そん時の先輩の顔見たかったわー」
「は?なんで?」
「いや、あんなもん見せられたら俺に気があるかもとか思っちゃうだろ」
「思わねぇわ。お前だけだわ」

 記事を見せた時もそうだけど、俺は告白とかそう言う気持ちを一切持ってないからな。そう言うつもりでは書いてない。ただ俺が思った事を素直に書いただけだ。それを真面目に友人に説き伏せようとするも、全然だめだ。人の話を聞きやしない。

「つかさ、お前も少しは気になるんだろ?その先輩」
「……まあ、今日の特番の次位には気になる」
「いやその特番が何位だよ」
「てかお前、いつからこう言う話好きになった訳?俺、こーゆー話嫌い」
「悪い悪い。ちょっと面白くてな」

 弄られる一方の俺はそんな面白くないけどな。不満な表情を隠さず友人を睨めば、機嫌直せよと飴をくれた。ふん、飴一個で機嫌が直る俺だと思うなよ。だが受け取っておこう。この飴好きだから。

「まあ何にせよ。良かったな」
「ん?まあな」

 うん、一件落着かな。
 これで暫くは何も考えずに済みそうだ。





「そんな感じで、俺と先輩の仲を疑うんスよねー。あんましつこい様なら先輩に直接物申してもらおうと思ったぐらい」
「そ、そうなんだ」

 と、友人と昼間した会話を先輩に伝えれば、先輩はどこか落ち着かない様子で相槌をうった。

「ところで先輩、今日金曜ですよね。委員会は?」
「今日はないんだ。ほら、もう直ぐ合宿だろ?」
「……あー。アレ」

 去年を思い出してげんなりする俺に、先輩は首を傾げた。そしてどことなく不安な顔で俺を見る。

「翔太郎は、あんまり楽しくなかった?」
「いや、企画自体は楽しい筈なんスけど、去年は部長に付き合わされて散々だったから……」

 俺が一向に生徒間の写真を撮って来ないことを部長は嘆き、そして報道部が何たるかを自分が連れ回す事により俺に教え込んだわけだ。と言うと聞こえがいいが、実際はただの雑用。故に俺は今も生徒間の話題には興味が一向に湧かない。もうホント、引き摺り回されてよく覚えてない。疲れて寝てた記憶しかない。

「そっか。なら、今年はもっと翔太郎に楽しんでもらえるようにしないと」
「え?ああ、気にしないで下さいよ。今年は部長に捕まらない様気をつけますから」

 そっか。その会議で何か意見しようってことか。でも俺のはかなり個人、つかマジで個人の問題だから、そんな大物が集まる会議で態々出す様な議題でもない。

「勿論、翔太郎の事を議題に出すわけじゃなくて、報道部にちょっとね」
「え?」
「とにかく翔太郎は、今度の合宿楽しんでよ。それで、その、班が一緒になれたらいいね」
「あ、ああ。そうッスね」

 何かよく分からないが、まあ疲れないならいいや。先輩があまりに良い笑顔で言うから思わず適当に頷く。だが先輩は言ってから何かに気付いたのか。ハッとして今度は顔を青くさせた。

「え、大丈夫ですか先輩」
「だ、駄目だ」
「何が駄目?」
「翔太郎と、同じ班に、なれない……」

 いや、まあ決まってるもんじゃないし、アレってくじ引きだろ?
 くじで決まらないとしたら、生徒会や風紀と言った面々ぐらいだ。あの人達は上手い具合に割り当てられる。勿論、自分たちが割り当ててるらしいけど。

「ま、まあ。同じ班になれたら奇跡ですよね。そん時は宜しくお願いしますよ」
「……うん」

 何が先輩を此処まで落ち込ませるのかは分からないが、俺は取り敢えず肩を落とす先輩の肩をポンポンと叩く。
 この間まで、この人は此処に居なかった。来なかったんだ。でも、今は居る。触れる距離にまで、戻って来てくれた。何だろうな、この感じ。すげぇ温かく感じる。

「ありがと、翔太郎」
「え?」
「なんか、気持ちが温かくなった」
「……そっすか」

 へへっと笑う先輩を見て、俺も釣られて笑ってしまう。それはこっちの台詞なんですけどね。そんな風に感じた事、今までなかったのに。
 はてさて、このポカポカした曖昧な気持ちは何だろう?
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bkm