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「と、撮れなくなったー!」
今、この学園はとある出来事で話題が絶えない。そしてその出来事のせいで、報道部はかなり崖っぷちに立たされているのだった。部長の叫びが何とも悲痛だ。
「今更どうこう言っても仕方ないッスよ。これはもう神様が健全な記事を書こう!て言ってる証拠ですよきっと」
「何を呑気な事を!一大事だぞ一大事!お前はもっと慌てろ!」
周りがそうだそうだ!と便乗してくるが、俺は気にせず自分の記事を部長に手渡した。
「その、何でしたっけ。センリ様?が全然遊ばなくなったくらいでそんな大袈裟な」
きっとアレだ。転入生と上手くいったからもう遊ばなくなったとか、そう言う理由なんじゃねぇの。よく知らないけど。つか生徒会の話だけで此処まで盛り上がれるこの学園を尊敬するわ。いやいや、平和だね。
「それじゃあ俺はこれで失礼します」
「待て浅木!こうなったらお前も……!」
「嫌です」
「拒否んな!あ、こら浅木!」
部長がぎゃあぎゃあ喚く部室を出た俺は、そそくさとその場を去った。自分の記事書いた上に皆の記事を手伝わされたら堪んない。
*
「先輩は普通なんだね」
「え?」
図書室に戻ると、先輩は何だか嬉しそうに本を読んでいた。俺が勧めた本。どうやら好みに合った様で良かった。しかしそんな先輩を見ていたら、あの話題がなかったかのような錯覚に陥る。俺は思い切って聞いてみた。俺の突然の問いに、先輩は目を瞬かせている。
「何が?」
「今この学園で持ち切りの話題。俺のクラスとかマジお通夜みたいな感じ」
だが先輩は本当に知らないのか、不思議そうに首を傾げるだけ。何だ、この人も生徒会長に興味ないのか。そう思ったら何か物凄い親近感が湧いた。ほんの少しだけ嬉しくなり、俺は気分よく隣に腰を下ろした。
「生徒会長が誰相手にも遊ばなくなったって話」
「――!」
「あれ?やっぱ知ってました?」
一瞬、先輩がピクリと身体を反応させた。だが先輩は「い、いや」と首を振る。その挙動不審な態度に今度は俺が首を傾げたが、まあ問い詰めても仕方ない。
「部長が煩いんだ。生徒会のスクープは人気あるからね」
「そう、か……」
「だからこれを機に方向性変えようって言ってんですけどねー、聞きやしねぇ」
まあなる様になるだろう。考えるのが面倒になった俺が、抑え切れない欠伸をした瞬間、横で先輩が小さく何かを呟いた。あまりに小さくて聞こえなかった。もう一度と催促すると、少し気まずそうな先輩が、俺を横目に見て聞いてきた。
「何で、遊びが減ったか、知ってる?」
「え、ああ。その話」
それは知ってるとも。だからみんな屍と化してるんだし。
「何でも好きな人が出来たからって言うのが、一番有力な情報らしいよ」
「そ、そうなのか!」
「その相手が転入生じゃなきゃ、此処までの騒ぎにはならなかっただろうね」
「え?」
「へ?」
俺の言葉に、チサ先輩が盛大に固まっている。何、俺なんか変なこと言った?
「先輩、おーい」
「……」
「チサ先輩」
「うわっ!ちょ、翔太郎!?」
呼び掛けても反応がなかったから、思わず頬を指で突くと、先輩が顔を赤くして俺を見た。何だ、漸く覚醒か。でも今の反応ちょっと面白かったな。
「先輩ボッーとしてるから、つい」
「心臓に悪い……」
そう言って胸を押さえる先輩は、顔を赤くしたままだ。そこまで恥ずかしがると思わなかった。何か申し訳ないことした。