千里の道も一歩から | ナノ


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「浅木!今日こそはちゃんと書いてきたんだろうな!」
「勿論です部長!」
「よし見せてみろ!……って、いつもと同じじゃねぇか!!」
「いてっ」

 パコンッと冊子を丸めて俺の頭を叩いてくるのは我らが報道部の部長だ。今回もまた俺は叱られている。

「どうしてお前はスクープを撮って来ないんだ!」
「部長!お言葉ですがこれも十分スクープです!」
「何処がだ!『斎藤家、第三子誕生』って誰得情報だよ!つか誰だよ斎藤!」
「俺のクラスの委員長です」

 だってネタがない時に探してたら斎藤んちで弟が生まれるって言うから、これは乗っかるしかないと思って。因みに写真は斎藤に撮って来て貰った。いやー良く撮れとる。

「お前ホント、才能あんだからさ、真面目にやろうよ」
「それは俺の台詞です。部長こそ何でそんなどうでもいいネタばっか仕入れるんですか」
「どうでもいいって、学内トップで人気を博している生徒会長様のネタだぞ!これ以上いいものがあるか!」

 そう言って息を荒くする部長は、俺に自身の記事を差し出した。

「読め。そして感動してお前もすんげぇ時事ネタ撮って来い」
「嫌です」
「拒否んな!せめて読め!」

 記事を返そうとした俺に、部長が記事を押し当ててくる。根負けした俺は、取り敢えず記事を受け取り何やらまだ言いたそうな部長に背を向け部室を出た。俺は普段他の人の記事は読まない。チラッと薄ぼけた写真等を見て、あーまた盗撮ねぇと思うだけだ。部長の記事は確かに面白いのだが、如何せんネタが俺の大嫌いなスキャンダルばかり。それも生徒会や風紀などの有名人たちの。もういいよ、その話はと思う。て言うか俺がこの学園入ってから今までずっと報道部のネタにされるぐらいのやつ等って何なの。どうしてネタが尽きないの?馬鹿なの?
 思わずため息が出る。俺はやはり薄ぼけた写真を細目で見ながら、堂々と書かれた見出しを見る。


「センリ様、今度は生徒会室で……か」


 小柄な生徒が、誰かに抱き締められている写真。それを見て、俺は顔を顰めた。





「翔太郎。お疲れさま」
「……どーも」

 図書室に入ると、俺の帰りを待っていたのだろう、チサ先輩が俺の鞄を守る様に抱えていた。確かに鞄見ててとは言ったけど、抱えてとは言ってない。そう、先程まで俺は此処で記事を書いていた。そしていつも通りそこに先輩が来て、静かに俺の傍で本を読んでいた。そして記事を書き終えた俺が提出しに行く為に先輩に鞄の監視を頼んだ。
 その時の先輩の顔ったらない。まるで頼られるのが嬉しいと言わんばかりの顔で頷いたのだ。解せぬ。まあいいか、無事提出できたし。小言は言われたけど。俺は先輩に礼を言いながら鞄を受け取り、先輩の隣の席に座った。最近は割と先輩が居ても気にならなくなった。と言うのも、先輩が以前引いていた一線がなくなったからかもしれない。完全にとは言わないけど、でも俺の言った事を受け止めてなのか、先輩は時々自分の事を話す時がある。前は秘密っとか言ってばかりでマジで分かんない人だったけど、最近は少し分かるようになってきた。だからかな、少しだけ、この先輩が居る空間が苦ではなくなった。寧ろ落ち着いている。
 まあ慣れたって事なのかな。そう思いながら、俺は先程部長から貰った記事を広げた。

「翔太郎、それは?」
「これは部長の記事です。読むの嫌ですけど、読めってしつこいので」
「どう言う内容……っ!」
「えっと、先週の金曜日、我々は生徒会長である尾上千――」

 先輩にも聞こえる様に読んであげようと思って声を出していたら、突然記事を取り上げられた。それも先輩によって。突然のことで呆気にとられた俺は、何故か酷く焦ったようなチサ先輩を呆然と見ていた。

「な、何スか突然」
「っ、あ、その……」

 自分の行動に先輩自身も驚いているようで、呆然とする俺を見て慌てていた。何その慌て様。

「見られてマズいもんでもありました?」
「ち、違う」

 嘘だな。でなきゃそんな必死に記事を取り上げたりしない。

「その記事、生徒会長と転入生の密会って内容ですよね」
「読ん、だのかっ?」
「まあチラッと」

 まだ全部は読んでないけど、生徒会長と転入生がデキてるって言う事実を皆が追っていたのは前から知ってたし。今回はそれを掴んだって部長が喜んでたから何となくは知ってる。けどどうしたことか、先輩は俺の返答を聞いてもっと焦っていた。

「翔太郎、これは違っ」
「人の恋愛にあれこれ口出すの、ホント止めて欲しいですよね」
「え……?」

 何をそんなに慌てているのか分からないが、俺は構わず思っている事を口にする。

「生徒会長も人の子なんだし、誰を好きになろうが自由でしょ。だから嫌いなんだよこう言うネタ」
「翔太郎……」
「まあ、俺には関係ない話ですしね」

 それだけ言って鞄を掴んで席を立つと、何だか複雑そうな顔をしたチサ先輩。何だその顔。俺そんな間違った事言った?直接そう聞くと、先輩は首を横に振った。

「嬉しい反面、悲しい」
「は?」
「いや、こっちの話」

 そう言って苦笑いする先輩に、俺は首を傾げるしかなかった。
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bkm