※凪が受け的発言をします。ご注意を





 耳に届く水音に、俺は恥ずかしくて枕に顔を埋めるしかない。

「ッ…は、ん」

 時折漏れ出そうになる声を、枕を噛むことで抑える。でもそれを不満に思ったのか、俺を攻め立てる快楽が強くなる。

「な、ぎさ…っ」
「ん…何故顔を隠すんです」
「あッ、ぅ、だって…」

 チラリと枕から顔を覗かせると、俺の下半身に顔を埋めていきり立った陰茎に舌を這わす凪さんと目が合う。俺の言葉の先を促す様に、指で亀頭を擦りながら、「だって?」と吐息まじりに問いてくる。強い快楽に唇を震わしながら、俺は何とか言葉にする。

「はず、かしい…から…」

 その台詞すら恥ずかしい。ああ駄目だ。羞恥で顔が赤くなる。情けない顔を見られたくなくてまた顔を隠そうとしたのだが、その前に凪さんに枕を奪われてしまう。あっ、と思わぬ行動に驚く。

「望み通りに触っているのに、全く貴方と言う人は…」

 俺の先走りで汚れた口を、凪さんが舌で舐めとる。その仕草にすら、艶っぽく感じてしまう俺は相当キテいると思う。

「貴方の足に負担にならないよう、こうして俺が口でしているんですよ」
「っ、んぁ」
「ああ、後、指で此処を擦られるの……好きですよね?」

 そう言って凪さんは、また俺の敏感なソレに触ってくる。隠すものがなくなった俺は、情けなく顔を、声を晒し出すことしか出来ない。でも、遠目に見ても、凪さんが俺で興奮してくれているのは、彼の下半身に目を向ければ分かる。確かに、ズボンを押し上げる様にソレが主張しているから。しかし、凪さんは一向に服の一枚も脱がない。いつもの仕事服のまんまだ。

「ぎ、さ…」
「どうしました?」
「あっ…凪、さんは…?」

 俺の質問の意味を理解したのか、ああ…と声を漏らした凪さんが、妖艶な笑みを浮かべて言った。

「俺は大丈夫です。足を怪我している主君に、無理はさせられません」

 それはつまり、端から最後までやるつもりはなかったと言うことか。最初から俺を気持ち良くするためだけに、自分を抑えて俺に触ってくれているのか?俺を気遣ってくれるのは嬉しい。けど、それは俺が求めたものとは違う。俺は、凪さんにも気持ちよくなって貰いたいのに。
 俺の落胆に気付いたのか、凪さんが少し困ったように笑い、そして何事かを思案した後、とんでもないことを口にした。

「宗介くん…では、此処を使ってみますか?」
「えっ?」

 此処、と言って凪さんが指さす先は、未だイケずにそそり立つ俺の陰茎。これを使う……その意味を理解するまでには十秒以上かかった。

「俺は、宗介くんに触れられればそれでいいです」

 まさかの申し出に面食らう。決して、気軽に出来ることではない。俺だって初めてしてもらった時は相当手こずったし、そしてやはり慣れない感覚だった。それを、今凪さんが自らそれを買って出ようとしている。でも、凪さんが嘘を言っている様には見えない。
 俺が望むなら、本当にそうするつもりだろう。けど。

「っ、そう、すけくん…?」

 俺は凪さんのベルトに手が届く位置まで手を伸ばすと、窮屈そうにしていたそれを外へと解放した。あまりに突然のことで凪さんは目を丸くしている。そんな彼の首に腕を巻き付け、俺の上へと抱き寄せた。

「俺は、貴方に与えられるものなら、何でも受け入れられる。それが快楽だろうが痛みだろうが、何だって」
「……」
「それに俺、これで、凪さんで満たされる感覚が大好きなんです」

 これ、と言って凪さんのソレをそっと撫でる。俺の耳元で、凪さんが息を呑む音が聞こえた。

「俺を、満たして下さい。凪さんで溢れるぐらい、余すことなく、ぜんぶ」
「――」
「……あの、だから、どうぞ、一思いにやって下さい…」

 凄い事を口にした。何だか最後はそれに気付いて尻すぼみな感じになってしまった。情けないな俺。少しばかりの後悔に顔を顰めていると、俺の耳元で凪さんが突然笑った。

「ふ、はは…!」
「凪さん?」
「全く、自覚もなく突然ぶっこんでくるよな…」

 ポツリと低く囁いた声はあまりに小さくて聞き取れなかった。しかし、グイッと怪我している方の足を掴まれ、一瞬ビクリと身体が揺れる。そのまま顔を上げた凪さんは、もう完全に迷いがない目をしていた。俺はそれが嬉しくて、思わず小さく笑ってしまう。

「後で、晃聖に診せましょう」
「……はい」
「だから――」

 貴方が痛いと喚いても、もうやめない。
 囁く声、でも今度はちゃんと聞こえた。俺はこれが答えだと言わんばかりに、彼の唇に吸い付いた。





「これでもう大丈夫だ」

 次の日、朝起きるとそこには何故か晃先輩が居た。慌てて起きる俺に、晃先輩はそれだけ言って席を立つ。あれ、俺服ちゃんと着てる。それに足を見ると、固定されていた足が今は自由だ。一瞬、昨晩の凪さんとの最中での痛みを思い出したが、全然だった。全く問題なく動く。それでもう分かった。先輩が治してくれたんだ。

「あ、あの、すいません。有難うございます」
「いや、礼には及ばない」

 そうは言っても、晃先輩は確か外に居たはず。どうして此処に居るんだ?俺の疑問を察知するように、晃先輩が呆れたように溜息を吐く。

「凪がまだ仕事をしていた俺を態々迎えに来たんだ」
「え…」
「相手が宗介だったから良しとするが、お前の事となるとアイツは見境がなくなる」
「それは、その…すいません」

 まさか仕事中の先輩を連れ出してくるとは思ってもみなかった。

「お前が謝る事じゃない。気にするな」
「本当にありがとうございますっ」

 次からは気を付けろ、そう言って晃先輩が部屋を出て行く。そして暫くして、凪さんが姿を現した。

「おはようございます」
「お、はようございます…」

 やはり次の日の朝は緊張する。それに昨日の自分の痴態を思い出すと尚更。しかし凪さんはそれを分かっているのか、それ以上は言わず、また俺に背を向ける。その背中に、俺は呼び掛けた。

「凪さん」

 晃先輩、ごめんなさい。無理やり連れてこられて嫌だったかもしれませんが、それでも俺は喜ばすにはいられないんです。だって、こんなにも俺を愛してくれている人が居るんだから。だから俺は、笑顔で応えるんだ。その人が一番好きだと言ってくれる笑顔で。


「大好きです」


 その言葉に、凪さんが少し頬を赤らめ、照れたように微笑んだ顔を見て、俺はとても幸せに感じた。


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