このえ様より頂いたリクエストです。
*
放課後、木に寄り掛かり本を読む俺の元へ、凪さんが現れた。
「……珍しいですね。那智がこんな所で寝るなんて」
「あ、凪さん。こんにちは」
「こんにちは宗介くん」
「此処、木の陰から陽が当たって気持ちいいですしね」
「それもありそうですが、それよりも、余程安心するんでしょうね」
特に貴方の傍は。
そう言って俺の横に腰を下ろした凪さんは、俺の膝の上でスヤスヤ眠る那智先輩を優しい顔で見ている。
「疲れているんでしょうか?会って少し話していたら眠いと言って、俺の膝に寝転がったらもう寝てしまいましたし……」
「まあ昨日家の仕事を回しましたしね。寝不足気味ではあったと思いますが、それでも此処まで警戒を解いた状態で寝ているのは久し振りに見ましたね」
「そう、なんですか?」
「自分の親しい人間や気を許している相手にしか普通見せませんよ。ましてやこんな外、いつ誰に見られるかも分からないのに、こんな気持ちよさそうに寝ているなんて」
サラリと、凪さんが那智先輩の頬にかかる髪を退かす。
んん、と那智先輩が一瞬身じろぐが、それも一瞬で、再び規則正しい寝息が聞こえてきた。余程眠いのだろう。
「フッ、寝顔は昔から変わりませんね」
「そうなんですか?」
「ええ」
そう言って笑う凪さんに釣られ、俺は寝ている那智先輩の顔を見る。確かに、いつも見る那智先輩とは違い、何処かあどけなさがある。可愛い、と言うと先輩には失礼かもしれないが、その表現が一番合っている気がする。
「なんだか、嬉しいです。俺の知らない一面が見られたので」
「宗介くんが頼めば、何でも見せてくれますよ。那智に限らず、ね」
「そんな事……」
「ありますよ。何なら、試してみればいい」
「え?」
「ほら、早く」
そう言って俺の目を見て笑う凪さんに一瞬ドキッとしてしまう。そんな風に見つめられると流石に俺も照れる。でも凪さんの言っている意味が分かってしまい、俺は口をもごもごさせながらも言葉を口にした。
「凪さんの事、教えて下さい……」
「ええ。分かりました」
ニコッと凪さんが笑う。揶揄われているのかと思ったが、そう言う訳じゃなさそうだ。俺はどうすればいいのか分からず、膝の上で寝ている那智先輩に視線を落とす。と、その時だった。俺の頬を、サラッと髪が撫でた。そして肩には重みが。
「っ、凪さん?」
思わず上擦った声を上げてしまう。だって凪さんが、俺の方に頭を預けているんだ。結構がっつり。だから一瞬俺の頬に髪が当たったのか。でも凪さんが俺に寄り掛かって来るなんて、初めての事でかなり動揺している。
「確かに、眠気を誘いますね。此処は」
「え?」
「俺も、那智と同じです。貴方だから、気を許してる。安心して、こうして自分を出せるんですよ」
それは、もしかして……。
「信頼して下さる、と言う事ですか?」
「何を今更。俺は最初から貴方を信頼していますよ」
真っ直ぐな言葉に、俺はコクリと頷きしか返せなかった。凪さんは、俺に嘘はつかない。多くは語ってくれないが、嘘をつくことはない。だから、今の言葉も信じていいのだろう。でも、そうなるとやはり気恥ずかしいけどな。
「俺も……」
「……え?」
「俺も、信頼してます。凪さんの事。勿論、那智先輩や皆の事も」
「そうですか。それ、後で直接言ってやって下さい。きっと泣いて喜びますよ」
そう言って嬉しそうに笑う凪さんに俺は、「考えときます」と言って目を閉じた。
凪さんも、それっきり言葉を発しない。俺は身体に感じる二人分の重みに温かさを感じながら、徐々に意識を飛ばしていくのであった。
*
「……珍し」
目を開けると、そこには先程までは居なかったはずの自分の兄が居た。しかも宗介に身体を預ける形で。俺は目を丸くしながら、宗介の膝の上で眠りにつく二人の顔をマジマジ見つめる。
「凪も、同じだね」
安心しきったその顔を見て、俺は笑った。
俺と同じ。安らげる場所は、この子の傍だから。
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