迦楼羅様より頂いたリクエストです。





「なあ大樹、これって――」

「何でアンタらまでいんの?俺は宗介と蓮しか誘ってないけど」
「別にー?俺は宗介に誘われただけだし」
「俺もだ」
「宗介の誘いともあれば断るわけにはいかない」
「そーそー。男の嫉妬は醜いよ?高地大樹」
「お前っ…!」

「蓮。向こうに行こう」
「う、うん。そうだね」

 俺が遠い目をすると、蓮が背中をポンッと叩いてくる。慰めてくれているのか。良いヤツ。と言うか、何故あの人達は所構わずああなのだろう。仲が良いと言えばいい…のか?まあいいか。それよりも今は楽しまないと。折角大樹が休日に遊びに誘ってくれたんだ。けど、俺と蓮は外出許可証が必要だったのに、今日誘った(と言うか出掛けようとしたら偶々会った)先輩達は俺達とそのまま外に出てきてしまった。まあ皆Sクラスだし、待遇も違うのだろう。

「宗介、ゲーセンは初めて?」
「前の高校で一回、大樹とクラスのやつ等と一緒に行ったな」

 あの時は初めてのモノばっかで凄く楽しかった。けど大樹とか凄かった。手元も見ないでアーケードゲームのボタンを操作するあの技術。俺もやったけどボコボコにされた。けどゲームって楽しいんだなと言うのが分かっただけでもよかった。

「そっか。それじゃあ俺とシューティングでもする?」
「シューティング?」
「銃でバンバン撃つやつ。結構面白いよ」

 その言葉に頷く。俺と蓮は険悪な四人を余所に、シューティングゲームに挑戦した。ゾンビがワラワラ襲い掛かってくるやつ。成る程、確かに面白い!
 思わず興奮する気持ちを抑えながら、俺は時間を忘れて蓮とゲームを楽しんだ。





「あー!楽しかったぁ!」
「ああ。ホント、予想以上に面白かった」

 ゲームが一段落し、俺と蓮は近くのベンチに座る。だがあまりこう言う場に慣れていない俺は、耳の奥まで響いてくる周りの音に少し頭が痛くなる。そんな俺に気付いたのか、蓮が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「宗介?大丈夫?」
「ああ。慣れてないだけだから大丈夫。ちょっと飲み物買ってくる」
「あ、それなら俺が……」

 立ち上がろうとした蓮を手で止め、此処で待っててくれと言った俺は、蓮に背を向け自販機を探し求める。ジャンジャンジャンと色んな音が鳴り響く。ああ、思ったよりも頭の中が熱くなってきた。早く飲み物を買ってスッキリしよう。そう思って漸く見つけた自販機の前に立った瞬間、後ろから肩を掴まれた。

「宗介?大丈夫か?顔色が優れないようだが…」
「晃先輩…」

 そこには先程まで睨み合っていた晃聖先輩が立っていた。もう終わったのか?

「少し頭が痛いだけです。すぐ治まります」
「……そこで待っていろ」

 ポンッと頭を叩かれ、自販機横のベンチを指差される。え、でも…と渋る俺に、先輩がスッと目を眇めた。うっ、と思わず息を呑み、俺はすごすごと引き下がる。先輩のこの目は人を従わせるには十分の威力がある。ストンとベンチに座り、頭を押さえた。ああ、何だか、どんどん痛くなってきたな。ズキズキと痛む頭に顔を顰めていると、コツンと頭に冷たい缶が当てられた。フッと視線を上げると、晃聖先輩が俺に缶ジュースを差し出してくれている。

「え、先輩、これ…」
「飲め」
「あ、ならお金を」

 財布に手を伸ばした俺を制し、先輩は俺の横に腰を下ろす。お茶を買ったのだろう、缶を手にしながら喉を潤している。そんな先輩を見ていた俺に、視線を寄越した先輩は首を傾げる。

「お茶がよかったか?」
「い、いえ。すいません……ありがとうございます」

 戴きます。そう言ってジュースを飲む俺に、先輩が微かに笑った。冷たくて美味しい。けど、やはり頭痛はそう簡単には治まらない。どうしたものかと悩む俺の額に、先輩がピトッと大きな手のひらを当てて来た。

「先輩?」
「――癒せ」

 ポツリ、そう呟いたのが聞こえた。おまけに瞳も若干紅い。そして同時に痛みがスッと引いていく。もしかしなくても、今のは先輩の魔導か?額に当てられた手が退く。

「もう平気だろ」
「は、はい。ありがとうございます」
「今のは内緒にしておいてくれ」

 凄いな先輩。涼しい顔してこんな事をサッとやっちゃうんだから、本当に尊敬する。

「わっ」
「無防備だな。ちったぁ周り見とけ」
「尚親先輩…!」

 今度は首にピトリと、反対側から冷たいモノを当てられた。よく見るとそれはアイスだ。なんでアイス?と目をパチクリさせていると、「やる」と言って先輩がアイスをくれた。そのままドカリと隣に座る。

「ありがとうございます…もう、平気です」
「ならいい」

 思わず小さく笑う。きっと尚親先輩も俺の具合があまり良くなかったのに気付いていたのだろう。こう言う気遣いをサラリとやっちゃう辺り、先輩は本当にカッコいい。ピラリとアイスの紙を捲り、齧り付く。おーつめた。

「宗介は俺が見るから、お前は向うに行けばいい」
「白河の坊ちゃんこそ、滅多にこんなとこには来れねぇんだ。社会勉強も兼ねて遊んで来いよ」
「……」
「テメェ、その人を馬鹿にした目やめろ。言いたいことあんなら口で言えよ」

 俺を挟んで何やら言い争いを始めた二人。何だか不穏な空気だな。そう思いながらアイスを食べていると、思ったよりも此処が熱いのか、アイスが溶けて手に垂れて来た。「うわっ」と声を上げながら、手に垂れたアイスを舐めようと舌を伸ばした。

「え?」
「ったく、ボケっとすんな」

 だが俺の手が俺の口元にやってくることはなく、何故か先輩に腕を掴まれ、代わりに先輩の顔が俺の手に近付く。そしてベロリと、赤く熱い舌が俺の手に垂れたアイスを舐めとった。その慣れない感触に、思わずビクリと身体が揺れる。

「あま…」
「あ、あの、ありがとう、ございまウグッ」

 自分で舐められたのに。けどやってもらったからにはお礼をしないと。そう思ってお礼の言葉を口にしようとした瞬間、グリッと顔を反対側、つまり晃先輩の方へ向けられた。顎をガシッと掴まれての行為だから、思わず変な声を上げてしまった。

「おいテメェ待……」
「宗介。此処、付いてるぞ」

 何処ですか?と俺が聞く前に、晃先輩が俺の口元に顔を寄せる。近いな、と思った時には、俺の口の端を、今度は晃先輩が舌で舐めとる。口の端にアイスを付けるって、子供か俺は。

「えっと、先輩もありがとうござ――」
「テメェこのムッツリが!何してんだよ!!」
「下半身の緩いお前にだけは言われたくない」

 しかし今度は尚親先輩が晃先輩の胸倉を掴み、何やら口論だけでは済まなさそうな雰囲気となった。ええ、どうして突然喧嘩になるんだ。取り敢えず周りの人も何事かと集まって来たし、先輩たちを収めないと。そう思って間に入ろうとした俺を、誰かが止める。

「な、那智先…」

 しぃー。人差し指を唇に当てそう指示した先輩は、俺の手を引きながら、言い争う二人からこっそり離れていく。にしても先輩いつの間に俺の傍に来たんだろう。いくら此処が煩いからって足音が完全に消える訳じゃないのに。今も俺の前を歩く先輩からは何も聞こえてこない。うーん、やっぱり那智先輩も凄い人だ。



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