はやたか様より頂いたリクエストです。





 世間的に、俺とあいつがどんな関係に思われているのか知らないわけない。結構いろんなやつに言われる。

「お前さ、七瀬と付き合ってんの?」

 そう、こんな風に。

「……寝言は寝て言え」
「ヒドッ!つか一緒に住んでるんだろ?」
「お前の頭の中では一緒に住めば誰でも交際してる事になるのかバカめ死ね」
「清々しいほどにドライで酷いヤツだよなおまえ」

 確かに周りからはよく言われるな。冷めてるとかクールだとかドライだとか。俺をどんだけ冷たいキャラにするつもりだよ。ただ思っていることを口に出したらこれだ。正直面倒だが、大学生にもなれば割りと慣れてもくる。ただし、この手の話題だけは未だに慣れない。

「どうしたら俺が陽二と付き合ってるように感じるんだよ」
「んー、お前っつーか七瀬の雰囲気かな?お前の傍に居る時はより華やぐと言うか」
「……第一男同士でデキてるとか、お前抵抗ないの?」
「だってお前ら二人揃って顔がいいから不快になるどころか似合って…っいで!」

 最後まで聞けず、思わず前に座る友人の脛を蹴りあげる。確かに、あいつは顔がいい。所謂イケメンってやつだな。しかも派手な顔つきを助長させるのがあいつのチャラさだ。もうホント、アクセとかもつけまくってチャラチャラジャラジャラ。髪は金髪に近いしもうとにかく目につく。遠くに居ても分かる。それがあいつ――七瀬陽二の特徴だ。

「けどホント不思議だよな。何でお前ら仲良いの?」
「は?」
「何ていうか、性格とか見た目とか真反対じゃん?」
「地味で悪かったな」
「え、嫌味?嫌味なの?お前の顔が地味だったら、俺なんかもう話にならないからな?」

 そう言えば、これもよく言われるな。何で俺みたいな優等生タイプの人間が、あんなチャラチャラヘラヘラ社会の厳しさから一番かけ離れた様な能天気なあいつと一緒に居るのかって。答えは知らねぇ、これ一択だ。気付けば傍に居た。気付けば一緒に住んでた。気付けばあんな……。

「鳥見?」
「っ…あ、ああ。何でもない。それよりどうする、これからどっか――」
「いーくと」
「ぐっ」

 ドスンッと背中から大きな物体が圧し掛かってくる。思わず重さに呻く。

「おい陽二っ、重い、どけ!」
「あはっ。ごめんねー。郁人見かけたら、つい」

 語尾に星かハートが付きそうな返答に、思わず肩パンを一つお見舞いする。「痛い!」と涙目になって文句を言ってくるヤツを無視して俺は友人に向き直る。

「悪い。で、どうする?」
「あー……俺、今日は帰るわ。またな鳥見」
「はあ?」

 何やら焦ったようにその場を去る友人。おいおい、お前が課題手伝ってほしいって言ったんだろうが。だが俺がそれを口にする前に、陽二が再び後ろから圧し掛かってきてそれも結局言えずじまい。心底イラついたので、陽二のつま先をその場で踏みつけた。飛び上がり悲鳴を上げたヤツを見て少しすっきり。





「んでさー!サキちゃんがねー、不誠実だー!とか言ってパーン!て叩いてきたの!酷くない!?」
「そうだな。酷いな」
「ねえちょっと、そっちはテレビであって俺ではないよ」
「そうだな。酷いな」
「せめて俺の顔見て言ってよ!」

 何が嬉しくて一緒に住んでるお前と仲良く大学から帰宅した挙句、長々とこの間出来たと言う彼女の話を聞かせられないといけないんだ。どうでもいいから早く風呂入って寝ろ。そして俺に勉強の時間を与えろ。

「ううー、郁人が冷たいよぉ」
「俺もう入ったから。後はお前だけ。ちゃんとお湯抜いとけよ」

 構わず変わらぬ態度をしていると、目に涙まで浮かべ、陽二は「郁人のばぁぁか!」と小学生並みの暴言を吐き部屋を出て行った。暫くして浴室から水音が響いてくるのが聞こえたから風呂にでも入ったんだろう。漸く静かになった部屋で、俺は思わず大きくため息を吐く。
 たぶん、と言うか百パーセント。あいつのせいで俺達の関係は怪しまれている。あいつはあの通りチャラチャラしているから人当たりもいい。誰にでも分け隔てなく接していると言ってもいい。しかし俺に対しては何故か過剰なんだ。何もかも。行動も言動も。それは俺達が初めて会った高校の時から変わらない。

『ねぇねぇ!キミ名前は!』
『鳥見郁人』
『郁人!可愛い名前ー!俺は七瀬陽二!ヨロシクねぇ』

 今思い出しても意味不明だ。図書室で静かに本を読んでいたら突然あいつが来てそんな事を言った。名前が可愛いってなんだ。可愛いは男にとって褒め言葉ではねぇぞ。それからは今の通り、気付けば俺の一番近い位置にあいつが居る。まさかあの時は、こんな長い付き合いになるとは思ってなかった。一々鬱陶しいし、我儘だし、女とは長続きしねぇし、チャラいし。不誠実って言われても文句言えないだろ。しかもあいつの困ったとこはそれだけではない。

「――郁人」

 いつの間に出たのだろう、後ろから名前を呼ばれ、そのまま抱きすくめられる。甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、俺の脳を麻痺させる。彼女に振られた……その内容を聞いた時何となく察しはついていた。
 ジワリ、手の平に汗が滲む。

「郁人……寂しい。寂しいよ」

 そう、こいつの困ったとこ一番をあげるならコレだ。
 超絶寂しがりやなとこ。

「ねえ、だから――慰めて」

 そして、俺で寂しさを埋めようとするところ。こいつだけに不誠実だなんて言えねぇな。俺も十分、不誠実ヤツかもな。そう思いながらも、俺は親友の甘ったるく人をドロドロに溶かす口付けを静かに受ける。

prev next


back