親衛隊隊長を代行します | ナノ
7

生徒会会計の親衛隊隊長である三鷹が、親衛隊解散を受け入れたと言う噂は瞬く間に広がり、そして今、食堂であった親衛隊の子を通じて俺の耳にも届いた。

「三鷹」
<なんて事、してくれたんだよ…>

 今日はこのままずっと、僕の部屋にいて。
 食堂を出て部屋に戻った俺に、三鷹が掛けた言葉だ。結局、昼も夜も食わずずっと部屋の中にいた。そんな俺に届いた知らせ。暗い部屋の中、俺は携帯の画面から目を外し、そして心の中の三鷹に話しかける。今までずっとダンマリだった三鷹が、静かに、何かを抑える様な声を絞り出す。

「俺は、後悔してない」
<お前なんてどうでもいいんだよ!!>

 とうとう、三鷹が叫んだ。

<いずれ消えるお前には関係ないんだよ!なのに僕の身体で好き勝手やってくれちゃってさ!>
「……それは」
<大体親衛隊を解散させる意味がお前には分かってない…ッ!>

 怒りのままに叫ぶ三鷹。しかしその声が段々と泣き出しそうなものへと変わっていく。

<僕一人の問題じゃないんだよ…隊のみんなが、親衛隊がなくなった後どうなるか…お前はそんなことも考えず、自分の考えだけを通した!!>
「――!」
<気持ちを軽視…?ああ、分かってるよ。悠生様はあの転入生が来て大分変ってしまった。良い方にも悪い方にも。でも、それでも僕は隊長である以上、隊の皆を、悠生様を護る義務がある!>

 俺は、自分の言った事に悔いはない。そして撤回する気もない。
 けど、三鷹の言い分ももっともだった。と言うより、上に立ったことのない俺には想像もつかなかった。三鷹が背負っていたモノは、俺の想像以上にデカくて、重いものだったんだ。三鷹が自分の気持ちを吐き出すことなくアイツに従っていたのは全部、隊の子の為……個人の気持ちだけを押し通した俺とは違う。

「悪かった三鷹…でも、俺は」
<遅いんだよ…ッ、今更、謝ったって…僕に謝ったって…っ!>
「三鷹」

 泣き出した三鷹に、俺はなるべく落ち着いた声で三鷹に話しかけた。

「そうだな、ごめん。俺も、お前の考えを軽視し過ぎた。これじゃあ、あの変た…いや、藤島悠生と何ら変わりないな」
<うあぁ…っ>
「俺はどうしても、お前の気持ちを蔑ろにするアイツが許せなかった。それが、俺の個の考えだとしても」
<ッ、んで…!>
「え?」
<お前のしたこと、許せないし、すごく、ムカつくのに…っ>

 嗚咽まじりの声が聞こえづらい。俺は静かに目を閉じ、その先の言葉を待つ。子供の様に泣く三鷹を慰めるにはどうしたらいいのだろう。顔が見えない分、どうしようもないけど、俺は意味もなく三鷹の腹をポンポンと叩く。全部、俺に返って来るんだけどな。

<僕の、気持ちなんか、誰も気にした事なかったッ…僕だって、顧みなかったのに…!>
「三鷹…」
<何でよりによって、お前なんかに……!>

 ――僕が一番欲しかった言葉を貰うんだ。
 それっきり、三鷹はただ大声で泣くだけだった。もう、ずっと、俺の中では三鷹の泣き声だけが響き渡る。ずっと、一人で隊を護って来た三鷹。きっと、誰にも弱味なんか見せたことなんかなかったんだろう。
 一人で闘ってきた三鷹だから、誰かに見てもらいたかったんだ。
 自分の、偽りない気持ちを。





 フと目を覚ますと、そこは朝陽が射し込む三鷹の部屋だった。ああ、そうか。俺、あのまま寝ちゃったのか。身体を起こし、三鷹と声を掛けるも、返答はない。昨日ずっと泣いてたからな。泣き疲れてまだ寝ているのかもしれない。
 俺は昨日言われた通り、身嗜みを整える。そして携帯を手に取り、かなりの量のメールに目を通す。

「裏切り者…ね」

 三鷹を擁護する者、反対に三鷹を責める者、どちらとも言えない者、それぞれだ。隊長である三鷹に届いたメールには、責め立てるメールと擁護するメールで一杯だ。それを見て、改めて自分の勝手さを知った。悪い事は言ってない。それなのに、それだけじゃどうにもならないこの状況。
 こんなメール、隊員思いの三鷹にはみせらんねぇな。

「飯…食いに行くか」

 ポツリと呟くが返事はない。俺は、一つ溜息を零し、徐に玄関へ向かう。
 どうすれば、どうしたらいいんだ。何かないのか。
 三鷹も、隊の子たちも傷つかない、そんな方法が――。


「ヤッホー、三鷹くん」


 部屋を出た瞬間だった。
 ドアのすぐ横、壁に寄りかかって座り込んだ男の姿が確認できた。
 忘れもしない、昨日聞いたばかりの声。

「変……ふ、じしま…くん…」

 思わず変態と呼びそうになった所を止めた俺を誰か褒めてくれ。


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