親衛隊隊長を代行します | ナノ
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 でも、それをこいつに気付かされるなんて、ホント俺年上らしいところをコイツに見せられてないな。いつも情けない所ばっか見られてる気がする。

「そうだよな。ごめん、樹」
「別に」

 そう言ってそっぽを向く樹に、俺は思わず苦笑する。こいつは変わらないな。それに、まだはっきり言った訳ではないのに、俺の正体が分かっているかのような振る舞いにはホント驚かされる。並外れた観察眼だな。それを本人に言っても、周りが大雑把なだけだとか、そう言った答えしか返ってこないだろうけど。

「樹ッ、何でだよ!何でそいつを庇うんだ!」
「別に庇ってないですよ?」
「庇っただろ!」

 樹に詰め寄る佐伯は、顔を真っ赤にして目を吊り上げて怒っていた。けど、そんな佐伯を見下ろす樹の目は、以前の様に好意を持っているとは思えない程冷めた目だった。

「な、なんだよ……」
「俺さ、亮太先輩好きだったよ」
「え?」

 何を言い出すかと思えば、突然の告白。その場にいる誰もが固まった。けど、俺はそれよりも、樹の告白が過去形なのが気になった。皆が樹の発言に注目している中、樹は大して表情も変えずに言った。

「けど、まあ何処が好きかと言われれば顔だったし、性格には目を瞑ってたんだけどさ」

 さ、最低だ!こいつサラッと顔だけが好きって言ったぞ!
 流石にその言い方はないんじゃないかと思わず樹の袖を掴もうとすると、それよりも早く、いつの間にか傍に来ていた悠生に手をとられ、そして静かに首を振られた。俺はそれを見て、小さく頷いた。今は黙って見ていよう。そう言われた気がしたから。

「亮太先輩が藤島先輩とくっついてからは生徒会の仕事も滞るし、でも用があれば俺達を呼び出すしで正直苛々してんだよね」

 樹は、本当に思ったことを口にするタイプだ。でも、決して面倒ごとには首を突っ込まないタイプでもある。そんな樹が、面倒になると分かっていても正直に話をしてくれているってことは、もしかして俺達を庇ってくれているからなのか?
 きっと本人に聞いてもはぐらかされてしまうだろうから言わないけど、でも、そんな気がしてならなかった。

「い、樹は俺が好きなんだろ……?だったら、俺の為なら何でもしたいって思う筈だろ!」
「そもそも俺、そこまでハートが熱いキャラじゃないし。極力面倒な事はあんましたくないんだけど」

 でも――と、そこで言葉を切った樹は、俺を見た。そして、珍しく笑みを浮かべて言った。

「面白いヤツと、泣き顔が好みのヤツにあったから、それ程亮太先輩を優先しようって気には正直ならなくなってたよ」

 それはそれは物凄く良い笑顔で言い切った樹に、佐伯は目を見開いて、そして現実を受け止めきれないのかフラフラと足元をふらつかせていた。

「な、なんだよそれ……っ」
「それに、此処の所ずっと、先輩の行動は目に余るなって思ってたし。もういいかなって」

 だから、過去形なのか。もう樹の中では佐伯に好意を抱いていた自分はもういないんだ。だからこその、冷めた視線だったわけか。

「っ、やっぱりお前が……お前が居るから!」

 すると樹の言葉に身体を震わせていた佐伯は、再び俺に怒りの矛先を向けて来た。すかさず悠生が俺の前に立ちはだかるが、俺はそれを手で制し、ゆっくりと佐伯に向き合った。今度はもう受け止める気はねぇよ。樹が言ってたように、俺はその拳を受け止めるべきではないんだ。
 けど、佐伯の拳が振り上げられることはなかった。何故なら、その手を他の誰かが掴んだから。


「――大陽ッ!?」


 今まで他の生徒会のメンバーと黙って事の成り行きを見ていた生徒会長が、佐伯の手を掴んでいた。それに驚いた佐伯が声を上げるが、生徒会長はただ顔を顰めて佐伯を見下ろしていた。


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