親衛隊隊長を代行します | ナノ
13

「悠生ッ、勝手に走り出しちゃうなんて何考えてるんだよ!」

 ムッと頬を膨らます佐伯は、ムカつくけど可愛い。ホント、男とは思えない程に。悠生と並ぶと特にその可愛さが倍増して見える。お似合いに、見えちゃうじゃんか。

「……!」

 と、更に佐伯の後ろ、扉の方から数人歩いて来る人達が見えた。あれは、生徒会のヤツらだ。その中には樹も居る。思わず樹を凝視していると、一瞬、樹と目が合った。樹は樹で相変わらず何考えてるか分からない顔で俺を見ていた。

「さあ戻ろう悠生。さあ早く!」

 その大きな声で、再び視線を悠生たちに戻すと、佐伯が悠生の手を引っ張り連れて行こうとしていた。思わず「おい!」と声を上げそうになった俺だが、当の本人は何故かその場から動こうとしなかった。

「ゆ、悠生?」

 佐伯が異変に気付き、悠生を振り返る。悠生は静かに、佐伯を見つめていた。

「――ごめん、亮太」
「な、なに謝って……」
「俺が現実を受け入れる強さがなかったから、俺は亮太をたくさん傷付けたね」

 言葉が出ず、口をパクパクと開閉させる佐伯から、悠生は後ろの生徒会メンバーへと視線を移す。

「皆も、ごめん。俺がハッキリしないばっかりに、辛い思いさせたよね」
「そんな……!」

 悠生の言葉に、生徒会長が苦し気な顔をする。他の皆も、何処か気まずそうに顔を伏せていた。樹だけは、表情が変わらず、悠生を見ているけど。

「本当は、最初から言わなきゃいけなかったんだ。でも、弱い俺は亮太に縋った」
「やめろ、聞きたくないッ!」
「それに嘘だとも分かってた。綾太をこの世に戻す方法なんて、端からないのは」
「やめろって!」
「けど、俺は利用したんだ。亮太の気持ちを、その名前を……」


 佐伯が途端に耳を塞ぎ叫ぶ。それでも悠生は話を続けた。
 真っ直ぐ佐伯を見据えて、自分の心を伝えてる。


「――ごめん。俺、亮太の気持ちには応えられない」
「ゆ、せい……」
「本当にごめん」


 そう言って頭を下げる悠生を、佐伯は呆然と見つめる。そしてその目から涙が零れた。次々に溢れる涙は、地面を濡らしていく。

「何でだよ、悠生……ど、して……」
「どうしても、逢いたい人が居る。逢って伝えたいことがあるって、言ったよね」
「ッ、それが、そいつだと言う保証はないだろ!?」
「――!」
「それに、香坂綾太は死んだんだ!!死んだ人間が生き返る筈がない!!」

 佐伯が悠生の服を掴み、叫ぶ。けど、悠生はそんな佐伯を静かに見下ろし、自分の服を掴む佐伯の手をソッと外した。

「……そうだね。けど、それを元に戻せると言ったのは、亮太だよ?」
「ッ、そ、それは!」
「それに俺、これでも好きな子はよく目で追うみたいだから、その子の仕草とか話し方とか、結構熟知してるつもり」

 そう言って少し笑みを零した悠生は、俺の方を見た。

「座り方が雑なのも、喧嘩っ早いのも、俺は知ってる。それに、俺を『藤島くん』って呼ぶ人は、俺の知る限りじゃ一人しか居ないから」
「悠生……」

 だから、悠生は俺が名乗る前に俺の名前を呼んだのか?姿が違っても、俺だと確信したから。

「ん、だよそれ……」
「亮太……」
「何なんだよそれ!」

 そう叫んだ佐伯の顔は、怒りで歪んでいた。そしてそのまま俺の方へとその鋭い視線を向けた。

「お前が、お前が居るから悠生はッ!」
「違う。綾太は関係ない」
「こいつさえ居なきゃ、悠生は俺から離れることはなかっただろ!!」

 俺に掴みかかる勢いの佐伯を悠生が掴むが、佐伯はその手を振り払い、俺に向ってきた。けど俺は、今までの様にこいつに殴り返そうと言う気が起きなかった。何だろう、この気持ちは――。

「綾太!」

 藤島くんの焦った声が聞こえる。それでも俺は佐伯が振り翳した拳を避けようとは思わなかった。そして、静かに目を閉じる。その時だった。
 物凄い力で首ごと後ろに持ってかれた。思わず「ぐえっ」と変な声が出る位。一瞬首が締まり咳き込む俺の前に、誰かが立った。つかお前か俺の襟を思い切り引っ張ったのは!


「テメー樹!」
「あれ。威勢がいいじゃん。ボケっと間抜け面で突っ立ってるから思わず手ェ出しちゃった」


 謝るどころかディスってきたぜこいつ。けど、樹の介入に驚いたのは俺だけではなく、佐伯も悠生も驚いた顔で見ていた。

「いきなり何すんだ!」
「アンタこそ。そう言う態度こそ相手に失礼だと思うけど?」
「はあ?」
「アンタがその拳を受けるのは、侮辱にしかならないよ」
「――!」

 そう冷めた視線を俺に送る樹の言葉に、俺はドキッとした。そして直ぐに後悔する。その意味を理解できたから。それに、その感情が何なのかも分かったから。

「そうだな……」

 俺、佐伯に同情したんだ。
 きっと、佐伯にとっては俺に同情されるのが一番嫌な筈なのに。


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