親衛隊隊長を代行します | ナノ
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「いい?チャンスは一度だけだと言うのを憶えておいて」

 金城は金持ちの坊ちゃんがわんさか集まる場所。だから表門の警備は厳重。そこを出るのも色々手続きとかしないといけない程、面倒な学園らしい。普通の生徒は。けど、財力の力で少しはルールを捻じ曲げられるのがあそこの学園の凄いところだ。特に生徒会、風紀委員はあの学園の中でもかなりの権力を持っている。あいつらが好き勝手出来るのは、家の後ろ盾があるからと言うのもあるだろう。
 話はズレたが、弥一も同じだそうだ。今回はお金で学園の出入りを見逃してもらったとか。けどそれはあくまでその学園の生徒である弥一だからであって、部外者である俺をそのまま金城に入れられるかと言うと、それは出来ないらしい。そこだけは、あの学園もしっかりしている。

「それじゃあ、どうやって入るんだよ」

 裏門……と言えど、警備員はやはりいるし、何よりそこの門もかなり頑丈な造りになっている。気合でどうにかできる話ではない。俺は思わず困ったと頭を抱えながら唸った。

「そんなの決まってるでしょ」
「え?」

 しかし、弥一は事も無げに言った。しかも笑って。

「正面突破。それだけだよ」

 今まで厳重だ、厳戒態勢だと言う話をして来ての正面突破。まさかの案に思わず笑いが零れる。不敵に笑う弥一に、考えがあるのかどうか分からない。けど、あの弥一からそんな過激な意見が出ること自体が俺には驚きだ。だから、信じてみようと思う。弥一を、そして自分を。
 彼に絶対会える、それだけを願って。





 とうとう月が変わり、二月になった頃、俺は弥一の家の車に乗って窓の外を眺めていた。

「お母さん、許してくれたね」
「ああ……お前の説得が効いたんじゃね?」
「この僕があんなに頭を下げる事、この先ないからね」
「うん。ありがと」

 リハビリのお蔭で大分動けるようになった身体。退院した後も、弥一がずっと付き合ってくれただけはある。手を開いたり閉じたりしながら、俺は不満そうな弥一の横顔を盗み見る。
 弥一は俺の母親の説得をしてくれたんだ。俺が、一度だけ金城に行きたいと退院してすぐ無茶な事言いだすから、当然親は反対した。何考えてるんだって。まだ身体も完全じゃないのに、また心配させる気かって。それに、俺は答えられなかった。確かにその通りだから。心配してくれているのが、分かってたから。けど弥一は、そんな俺の背を一度ポンッと叩くと、俺の母親に向って頭を下げた。

「『一日だけ、息子さんの時間を僕に下さい』だっけ?」
「一日だよ。ホント、それしか猶予ないんだから、気張っていきなよ」

 僕が、どんなことがあっても護りますから。
 そう言って頭を下げる弥一に触発され、俺も勢いよく頭を下げた。

「ごめん。どうしても、会いたいヤツが居るんだ。だから、反対されても俺は行く」

 その意思をどうにか分かってもらいたくて、頭を上げて母親を見つめる。その目は揺れていた。一瞬泣いてしまうんじゃないかと、不安が過る。けど、母さんはそのまま笑ったんだ。本当に不意に、口元を緩めて笑った。

「母親って、凄いな」
「……そうだね」

 すごく心配してた筈。それでも俺の意思を尊重してくれた母さんは、一日だけと言うのを条件に俺達を見送ってくれた。

「なんだか大人になったみたいねって言ってたな」
「成長したって、事なんじゃない?」
「あんま自分では分かんねぇけどな」

 一日――たったそれだけの時間で、俺は想いを伝えきれるのだろうか。そもそも会える保証もない。それでも、今こうして車に乗って、俺は向っているんだ。


「さあ、見えたよ」


 弥一の声に、俺は顔を上げた。ドクリと、心臓が波打つ。
 目の前に聳え立つ、学園を目にして。


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