親衛隊隊長を代行します | ナノ
3

 大して時間は経ってない。
 それでも、途方もない位長い時間会っていなかったかのような、そんな錯覚を覚えるのは何故だろう。

「あら、貴方昨日の……」

 母さんが扉の所に立つ男に目をやる。
 ああ、やっぱり。俺の勘、当たってるわ。

「――綾太」

 ポツリと、その形のいい唇から声が漏れる。その声は泣くのを堪えているのか、少し震えていた。
 俺は何とか身体を起こし、床に胡坐をかく。やっぱり、コイツの前では少しでも強い俺でありたいから。さっきまで立てなくて這い蹲ってたとは思わせない程の余裕を見せる為、両手を広げて、精一杯笑みを浮かべる。

「ははっ。やい……」

 けど声が震えて、途中で途切れた。あーあ、駄目だ。どうにも無理そうだわ。自分の意志に反して、目から勝手に涙が出てきやがる。
 こんな馬鹿みたいに格好悪い俺を、お前には見せたくなかったのに。

「……やっと、見つけた」

 なんて、今更か。お前にはきっと俺の心の内なんてお見通しだから。隠したって無駄なんだ。
 だから今は、素直に言うんだ。


「会いたかった」


 俺達二人の声が重なるのを皮きりに、部屋に飛び込んで来た三鷹弥一が、俺の胸に飛び込んでくる。勢いそのままに床に倒れ込んだ俺達は、他人から見たら引く位大きな声で泣いた。「おかえり」と耳元で繰り返し呟く弥一に、俺はまだ母さんにも返せていない言葉を口にした。


「ただいま」





「えっと、お母さんちょっと外に買い物行ってくるね……」
「お、おう」
「それじゃあゆっくりしていってね」

 気まずい。でも息子の号泣姿を見た母親はもっと気まずいことだろう。母から声を掛けられた弥一も、何処か気まずそうに「ありがとうございます」と顔を俯かせながら返していた。病室から出て行く母の姿を見送りながら、俺はゆっくりと弥一に視線を戻した。
 お互い泣いたばかりだから、目の端も鼻も赤い。俺の視線に気づいたのか、グスッと鼻を鳴らした弥一は、さっき泣いてたとは思えない程の眼光で俺をギッと睨み付けて来た。思わず「ひえっ」と変な声が漏れた。お前、少し見ない間にそんな目も出来る様になったのか。

「……何で、目が覚めたのに連絡の一つもない訳」
「え?」
「こっちがどれだけ苦労してお前の居場所を掴んだと……」

 そう言って唇を噛み締める弥一は、また泣きそうだ。
 俺は慌てて弁解しようとしたが、そこで口を閉ざす。こいつには、ちゃんと真実を言った方がいい。俺の、情けない気持ち全部。

「悪かった……俺、怖かったんだ……」

 都合のいい夢を見てたのかもとか、学園が実在しなかったらとか、もしもお前らが実在しなかったらと考えたら、自分から動くことが出来なかったんだ。ポツリポツリと自分の想いを零す俺の傍で、弥一はジッと俺の言葉を聞いていた。

「馬鹿……」
「うん。ごめん」

 小さな声で弥一が呟いたが、その言葉に非難めいた様子はない。そんな弥一を不思議に思っていると、弥一が「僕さ……」と話し始めた。


「本当は、お前のお墓を探しに来たんだ」


 此処に来た理由。
 俺が消えてからの数か月間を、弥一が話してくれた。


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