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今が一月だと知ってから更に数日が経ち、俺は漸く少し身体を起こせるようになった。
ずっと寝てたせいで筋肉がおち体力もなくなってたから、最初中々身体を動かせなかった。今は横になりながら少しづつ身体を動かしている。今日のリハビリも終わり、外が暗くなって来た頃、俺は窓の外をただボーッと見ていた。
「綾太。大丈夫?リハビリ辛くない?」
「平気だって。まあ思うように動かないのはもどかしいけど」
「でも貴方、この頃ずっと窓の外見てボーッとしてるじゃない。何かあった?」
流石によく見てるな。俺は、心配そうな母さんに顔を向け、安心させるように笑う。
「何も。疲れたから俺ご飯まで寝るわ」
「……そうね。お母さんも今日は帰るわ。また明日来るからね」
「うん。お休み」
そう言って病室を出て行く母の姿を見送り、俺はまた窓の外を見た。
最近、思うんだ。あれは、俺が都合よく見ていた夢なのかもしれないって。あの場所での思い出も、何もかも、全部夢だったんじゃないかって。
「……なんて」
思わず自嘲気味に笑う。本当は、聞けばいいんだ。金城って学園はあるのかって。有名な学校なんだ。名前なんかすぐに分かる筈だ。でもそれが出来ないのは、怖いから。もし本当にそんな学園が存在しないってなったら、俺はどうすればいい。
こんなに溢れ出る『会いたい』って気持ちを、今更抑えられやしないのに。
(会いたいな……)
臆病な俺は、今日も心の中でそう呟く。
*
「え?昨日?」
朝、病室にやって来た母からの話に俺は首を傾げる。
「ええ。貴方を訪ねに家に来たんだけど……来なかったのね。面会時間に間に合わなかったのかしら」
何でも昨日の夜、俺の家に誰か訪ねて来たらしい。それで友達だと思った母さんが病院と病室の番号を教えたそうなんだが、昨日は母さんが帰った後は誰も来なかったな。
「まだ時間もあったからてっきり行ったかと思ったんだけど」
「へえ、誰だろ。高校のヤツかな」
「そうかもしれないわねぇ。でも、貴方の友達殆ど来てくれたと思ってたわ」
まあそれは確かにそうだ。
俺の友人たちは、俺が目覚めたと言う一報を受けたのだろう、次々と俺の病室を訪れにやってきた。クラスメイト、部活仲間、小中の同級生、色んな奴らが訪ねて来た。だから、今更俺の事故を知らずにいる知り合いがいるのかどうか。
「本当に俺の知り合い?」
「高校生だったし、貴方を訪ねてきたらそうだと思ったんだけど……まあ今日あたり来るんじゃないかしら」
「んー、まあそうだな」
さてと、そろそろリハビリの時間だ。
そう思ってゆっくり起き上がろうとした時、母さんがポツリと呟いた。
「それにしても昨日の子、可愛い顔してたわね。男の子とは思えないくらい」
「え?」
今、なんて言ったんだ。思わず母さんの顔を凝視すると、母さんが照れた様に笑って言った。
「昨日訪ねてきた子、可愛い顔してたのよ。それに貴方が病院に居るって言ったら目に涙まで浮かべて。本当に心配してくれてたんだなぁって母さん思って……」
母さんの話が終わる前に、俺はベッドから飛び出そうとした。けど、まだまともに歩けるだけの筋力が戻ってなくて、べチャッと無様に床に這い蹲った。それでも尚進もうとする俺に、母が驚き叫んだ。
「何してるの綾太!大丈夫!?」
「くそっ、なんでこんな動かないんだよ!」
足が思うように動かなくて情けなくなる。でも、こんな所でグズグズしていられない。どうしてだろう。確証がある訳でもないのに。それなのにどうして俺の中で、もう答えが出ているんだろう。
「綾太っ、ベッドに戻りなさい!」
「離してくれッ。俺、俺は!行かなくちゃ……!」
「綾太!」
母が叱る様に叫んだその瞬間、静かに病室の扉が開いた。
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bkm