親衛隊隊長を代行します | ナノ
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 俺、ずっと分からなかったんだ。何で俺はもう一度生きるチャンスを与えられたんだろうって。でも今になって、漸く分かった。
 神様は意地悪でも何でもない、ただ俺の願いを汲んでくれたんだ。


(――身も心も焦がれるような恋がしたい)


 そう、それが俺の後悔だった。後悔と言う願い。
 そして俺はチャンスをもらった。神様によって。そして、恋をしてしまった。文字通り、身も心も焦がれるような恋を、恋心を藤島くんに抱いた。きっと、俺が自分の恋心を口にしたあの瞬間、俺の願いは叶った。だから終わってしまったんだ。俺は、願いを叶えるためにチャンスをもらったまでだから。ホント、嘘みたいな話だ。そんでもって、まだ俺は願ってしまうんだ。この闇の中を、どの位の時間彷徨ったのかも分からない。それでも、心から願うのはただ一つ。
 ――もう一度、会いたい。叶うなら、もう一度。


(綾太……綾太……)


 だって、俺を呼ぶんだ。ずっと、ずっと。
 泣きながら、俺の名前を呼んでるんだ。行かないと。行って、俺が安心させてやらないと。大丈夫だって、俺はすぐ傍に居るよって。だから頼む。どうか、もう一度。もう一度だけ――。


 そう願った瞬間、黒一色だった俺の視界が白く開けた。





 なんだ、瞼が重い。目を開けると言ういつもの動作でさえこんなにキツイなんて、一体どうしたって言うんだ。そして漸く、目を開ける事に成功した。しかし身体を動かそうにも全く俺の指令に反応しない。
 オイオイ、一体どうなってんの?つか、此処は?あの暗闇の世界はどうしたんだ。


「綾、太?」


 すぐ傍で震える声が聞こえてきた。顔ごとそちらに向けたくても中々動かせない為、視線だけをそちらに向ける。俺のすぐ傍に、見慣れた女性が座っていた。俺の記憶よりも幾分か痩せている様にも見えるその人は、間違いない。

「か……さ、ん?」

 声が思うように出ず、掠れた声しか出せなかった。しかし、殆ど聞き取れないであろうその声を、母さんは拾ったのだろう。自身の座っていた椅子をひっくり返しながら俺の元へ近付く。その目には、ボロボロと涙が浮かんでいた。

「りょーたぁ」

 俺の顔や手をペタペタ触りながら泣きじゃくる母親に、止めろよ恥ずかしいと言う声も出ず、何故か俺の目からも涙が一筋零れた。懐かしい。そして何より温かい。あの暗闇の世界ではそう言う思いも感じられなかったから。だからかな、母さんの温もりで無性に涙が出るのは。
 おかえり、おかえり綾太と泣き続ける母の声だけが病室に響き渡った。





 結論から言うと、俺は生きていた。
 信じられないかもしれないが、あの時車に轢かれた俺はそのまま意識を飛ばし、病院で治療を受けるも中々目を覚まさなかったらしい。しかし検査をしても結果は変わらず、ただ時間だけが過ぎて行った。一時はもうダメかもと諦めかけたと言う両親。そりゃそうだ。怪我は完治しているし検査では異常が無いのに自分の息子が目を覚まさないんじゃな。でも、それでも一縷の望みを捨てずに最初の病院から転院して此処に来たらしい。
 涙ながらに横たわる俺に話してくれる母さんは、俺の勘違いなどではなく本当に痩せてしまったらしい。それ程までに、俺はこの人達に迷惑を掛けてしまったんだ。

「母さん、今、何月……俺は、どの位、寝てた?」

 漸く数日が経ち、まともに口が利けるようになってきた頃、俺はそんな質問をしてみた。すると母は、優しい顔で窓の外を見た。
 外は、雪が降っていた。


「今は一月。もう、丁度年を越したばかりなのよ」


 その言葉に、俺は口を閉ざした。
 俺が事故に遭ったのは六月末。もう半年以上眠り、そして、俺が彼らの前から消えて随分になる。


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