親衛隊隊長を代行します | ナノ
4

 この身体の持ち主である三鷹弥一と不毛な言い争いも終わり、冷静になった俺達は思った。とりあえず、受け入れなきゃいけない。今の現状を。
 俺は三鷹の身体から出れないと言う現状。少なくとも俺や三鷹の意思ではどうにも出来ないんだ。

<あーもう最悪…何でよりによってこんな馬鹿に…>
「おいコラ。誰が馬鹿だ。俺だってお前みたいな貧弱な身体に入りたくなかったっての。見ろこの手。さっきの変態殴っただけで赤く腫れて…あー使えない」
<何だと!大体お前誰だよ!僕にそんな口聞いて…僕を誰だと思ってんの!>
「三鷹だろ。さっき名乗ったじゃん。おいおい、まさかもう忘れたのか?」
<違う馬鹿!>

 ホントよく怒鳴るなこいつ。しかも人の事馬鹿馬鹿呼ぶし。大体俺が知りたいよ。此処が何処かなのかさえ分からないんだから。そんな俺の思いを感じ取ったのか、三鷹が不貞腐れた様な声で教えてくれた。

<……此処は有名な金持ち学校だよ。知らないの?金城って聞いたことない?>
「あー…知らん」

 何となく聞いたこともある気がするけど、とりあえず俺の住んでいるところからはかなり遠いと思う。だって田舎だし。

<信じらんない!何でそんな無知なの!?>
「うっせぇな。俺は空手の鍛練に勤しんでたの。お前みたいに爛れた生活は送ってなかったの」

 まあ、だからと言ってテレビを全く観てなかったと言うわけではないから、やはりこれは俺が知らないのがいけないのかも知れない。言わないけど。

「にしても、何でよりによってあんな場面で……つか、あの男こそ誰だよ」
<あの男じゃない!藤島悠生様!>
「お前…男に様とか付けて呼んで恥ずかしくないの?」
<恥ずかしい?むしろ光栄だね。あの方を護る為ならどんなことでもするよ。例えそれが悠生様が愛してる子を傷付けることになってもね>
「あー。もしかしてリョータに手を出すなとか言われてたの、そのせい?」

 俺の言葉に、三鷹がグッと息を呑んだのを感じた。成る程、図星か。そして先程までの威勢のよさはなくなり、ポツリポツリと弱々しい声で話始めた。
 何でも三鷹はあの変態(藤島悠生)の親衛隊隊長とやらを務めてるそうで、ヤツのためなら労力だろうが身体だろうが喜んで差し出す。それはヤツの親衛隊に限らずどこもそんなモノらしい。しかし変態に尽くす三鷹の幸せもそう永くは続かなかったようで、此処で問題となってくるのが、そのリョータこと佐伯亮太と言う転入生の存在だ。
 何でも佐伯は、変態の所属する生徒会の役員たちを片っ端から虜にした強者らしい。会長、副会長、書記、庶務、そして会計である変態。全員から愛される凄い位置にいる。しかしハッキリ言ってしまうと佐伯は物凄く個性的な容姿をしているらしく、三鷹曰くマリモだそうな。何だマリモって。そして性格はお世辞にもいいとは言えず、自己チューな上に馬鹿だと三鷹は語る。そんな佐伯を周りの親衛隊のやつらが放って置くことはなく、制裁と言う名のいじめが始まった。

「お前、そんな事したらそりゃ嫌われんだろ…」
<でもッ、あの転入生…親衛隊を潰そうとしてたんだ!>

 それを阻止しようと親衛隊が制裁を下していると、今度は役員のやつらが怒りだした。そして親衛隊を解散させるとまで宣言し始めた。どうにかそれをなしにしてもらいたくて、三鷹は変態の所に交渉しに行ったらしいのだが、交渉すらさせてくれない。なら自分を好きにしていいと言って何とか交渉の機会を得ることに成功した。それが、俺が丁度三鷹の中に入ってしまった時のあの場面だったらしい。

「交渉って言う割に一方的な感じだった気がするけど?しかもお前喜んでたし」
<当たり前でしょ!好きな人に抱いてもらうんだから、誰だって嬉しくもなるよ!>

 抱いてもらうって言う発想のない俺からしたら異様だけどな。

「ハァ…つか、暫く俺このまんま?マジかよ、メンドくせぇ…」
<この僕の身体に入っておいてその言いぐさ…!こんな美少年の中に入れたことをもっと光栄に思えよ!>
「自分で美少年とか言うなよ。痛いぞ」

 それに対して三鷹がギャーギャー反論してくるのを無視して、俺はゴロンと仰向けに寝転がる。身体の奥で反響する声にげんなりしていると、ドッと疲労感が襲ってきた。そういやさっきも来たなこの感じ。そして今度こそそのダルさに負けた俺の瞼は徐々に閉じていく。ああ、くそ。何か眠い。

<ちょっと!!お風呂入ってから寝てよ!聞いてんの!?>

 そんな三鷹の焦り声を最後に、俺の意識は完全に落ちた。



prev next


bkm

top