親衛隊隊長を代行します | ナノ
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『続いては、借り物競争です』

 とうとう、俺の番がやって来た。
 ゲートを潜り、だだっ広い校庭の真ん中で列を作る。何か歓声が凄まじいんだけど。普通色別対抗リレーとかじゃないその盛り上がりは。皆のテンションに若干引きながら、同じ競技に出るヤツらの顔色を窺うと、何故か皆蒼い顔をしている。そう言えばこの競技エグいんだっけ。結局どう言うエグさなのか、三鷹も岩槻も教えてくれなかったから分からないけど、皆の様子を見る限り良い内容じゃないな。でもやっぱ競技ともなれば燃える!

『第一走者はスタートラインにお集まりください』

 因みに俺は第三レース。だからこの競技の傾向をちょっとは見ることが出来るな。準備運動を怠らず、ストレッチをしながら俺はスタート位置についた皆を見る。
 そしてついに、合図の音がグランドに鳴り響いた。皆が一斉に走り出す。そして三十メートルを走り切った所に置いてある箱に辿り着くと、中から紙を引っ張り出す。それに今回のお題が書いてあるはずだから、見てる限りは普通の借り物競争に見えるけど。

「うおおおおぉ!!」
「あああああぁ!?」
「よっしゃああああ!!」

 すると、紙を見たヤツらが突然叫び出した。喜びの雄叫びを上げたり悲鳴を上げたり、正にその光景は異様だった。何だ、一体どうした!?
 俺が男達の様子に驚愕している合間にも、男達は涙目になりながら走り出した。恐らく、その目的の物に向って。だが男達が目的の物を探して、コースに戻って来た時、何故か人を連れているヤツらが多い。あれ、これ借り物競争だろ?

「つ、連れてきました」
『えっとーお題は、《タラコ唇の人》ですね。はい大丈夫です。ゴールまで走って下さい』
「おい!誰がタラコ唇だ!」
「イヤしょうがないんだって!お題がいけないんだ!」
 
 ……何あれ。お題として連れられた人が、走者の胸倉を掴んで激怒している。まあ俺から見てもタラコ唇だし、お題としてはクリアになるのかもしれない。だが、あのタラコの怒りは治まらないらしく、挙句の果てには風紀の人によって連行された。あそこまで怒ると言う事は、きっとあのタラコ唇がコンプレックスだったに違いない。

「連れて来た。だが頼むから小さな声で……」
『お題は《最後に一緒に寝た人》!これは間違いないですか?』
「ああ。昨日、彼と"寝た"よ?」
「お、おい!ちょ、声がデカい!」
『ではゴールまでお通り下さーい!』

 やけに審査する人に小さく話せと言っていたが、どうして寝たってことだけでそんな慌てる必要があるんだ?よく分からん。とか思っていたら、観客席からこれまた般若の様な顔した男が、今しがたゴールしたヤツらに近寄っていった。そして走者の男の前に立ったかと思えば、いきなりグーパンをかました。ひええ!となっているのは俺だけで、意外にも皆まだ残りの走者の方を見ていてその事件に気付いていない。

「ちょっと!まさかとは思ってたけど浮気してた訳!?信じらんない!」
「ち、違うんだ!これには訳があってッ!」
「うるさい!問答無用だ!死ねぇぇ!」

 何あの修羅場。え、もしかして"寝た"ってそっちの意味?つか何この競技。ある者は傘だけで済み、ある者は恋人の信頼まで失う。何これ。重くね、ヘビーじゃねこの競技。主にメンタル的な意味で。え、俺マジでこれやるの?もう足の速さとか関係ないよな。いかに嘘なしに真実を差し出せるかじゃね?やばいよ、エグいってそう言う意味なの!?
 そうこうしている間に第二レースが始まろうとしていた。やべー次じゃん俺。これって物を引いた人は当たりくじって思っていいのかな。俺絶対お題が人は嫌だ!お題によっては俺も相手も傷つくの目に見えてんじゃん!
 とは言え、今更引き返すわけにもいかず、俺はただ自分の番を待つしかない。第二レースのヤツらが撃沈するのを見ながら、とうとう俺はスタートラインに立つことになった。ガクリと肩を落とすも、始まりはあっという間に訪れる。

「位置についてー!」

 ああ、もう。こうなりゃ自棄だ。
 岩槻との勝負もあるし、なせばなる!


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