親衛隊隊長を代行します | ナノ
3

<何悠長なこと言ってんの!もういいからさっさと出て行ってよね!>
「うっせぇ!俺だってこんな身体さっさと出て行きたいわ!」
<こ、こんな身体ぁ〜!?>

 ベッと内心舌だしすると、頭の中で喚く声がデカくなる。
 ああ、何だってこんなことになったんだ。





 姿見の前で茫然と立ち尽くしていると、ベッドの方からう〜んと唸り声が聞こえてきた。その声に弾かれる様に、俺は我に返る。今はそれ所じゃない。とにかく外に、いや、でも何処へ行く?見たとこ此処も初めて見る場所だし、こんな女と勘違いされてもおかしくない美少年の姿にこの恰好じゃ襲われても文句言えない。ああ、くそ。どうする。

<ああもう!とにかくさっきの部屋戻って僕のズボン穿いてよ!その中に部屋の鍵あるから!>
「…え、あ、ああ。分かった」
<あーあ、久々に悠生様に抱いてもらえたのに、こんなことになるなんて…>

 がっくりと落ち込んだ様子の声の主だが、俺としてはこの先ああ言うことは勘弁だ。何で男に突っ込まれてアンアン言わないといけないんだ。しかも無駄に気持ち良かったし……ああ、駄目だ!今のなし!
 そうして言われた通り鍵をゲットした俺は、その美少年の持ち主である制服一式をちゃんと身に付け、部屋を出た。やはり見たことのない場所。部屋を出た先は長い長い廊下が左右に広がっていた。何だここ。何処かの屋敷か何かか?一定の距離間に扉がついてる。部屋がその数あるってことか。

<何ボケっとしてんのさ!早く僕の部屋に行って身体返して!>
「わっ、脅かすなよ。大体、此処何処よ。お前の部屋ってどこ」
<ああもう面倒!黙って僕の言う通りに歩いて!>

 黙って欲しいのは俺の方なんだが。頭の中でそう思ったにも関わらず、相手には伝わっているようで「何だと!」と突っかかって来た。面倒なのはどっちだよ。そして色々ギャアギャア言いわれながらもナビゲートされた部屋の前についた俺は、ズボンに入っていた鍵を使い、部屋の中に入った。
 窓の外の様子から見るに、もう夜みたいだ。恐らく廊下がこんな静かなのは皆寝ているからだろう。それなのにさっき部屋であんな騒いじゃったな。声とか、聞かれてない…よな。

<防音なんだから聞こえる訳ないじゃん。そこの部屋、僕の部屋だから入って>
「…お前少しは人のプライバシーとか考えろよ」
<だったら突然人の身体に不法侵入してきたお前も考えたらどう?>

 入りたくて入った訳じゃねぇよ。て言うか今更だけど、この煩い声の主がこの身体の持ち主ってことだよな。ウゲロォ、全然合わない。もっとお淑やか性格ならまだしも、こんなキャンキャン煩いヤツがこの容姿とか有り得ない。つか、そもそも身体が入れ替わってること自体俺はまだ受け入れられていない。あれ?でもこの身体の主が此処に居るって事は、俺の身体には入ってないってことだよな。なら、俺が勝手に割り込んで来ただけな感じ?それじゃあマジで不法侵入みたいじゃん。

<てゆーか、何でお前みたいなヤツに身体乗っ取られなきゃいけないわけ?しかも悠生様を殴り倒す始末!ああ、なんてお詫びをすればいいのか…!>
「そりゃあ死んだと思って眠ってたら急に意識戻されて、目開けたらあんな状況だったんだ。男に組み敷かれて殴らないわけないだろ」
<抱いてほしいって頼んだのは僕なの!なのにいい所でお前が邪魔するから!>
「うぇぇ。マジかよ」
<……て、お前今死んだとか言わなかったッ?>

 男同士とかないわぁと思っていた俺の中で、そいつが少し驚いたような声を上げる。

「ああ、たぶん。俺車に轢かれて死んだ」
<っ、な、ならさっさと成仏してよ!僕の身体にいられちゃ迷惑なの!>
「分かってるようるせぇな。俺だって好きで来たわけじゃねぇし、今返すよ」

 どうせならもっと可愛い子の中にいれて欲しかった。まあ、こいつも見た目は可愛い上清廉そうなのに中身は全く別物。男だしうるせぇ。これならあの静かな空間で漂ってた方がマシだ。そう思い、目を瞑って念じる。出ろ、出ろと。

「……うーん」
<ちょっと!真面目にやってんの!?>
「やってるわ!つかお前も念じろよ!」

 何で僕が!と文句を言いながらも渋々一緒になって念じてくれた。しかし結果は失敗に終わった。いくら念じても俺の魂がこいつの中から抜ける感覚は全くない。そもそも入った方法も分かんないのに、闇雲にやっても抜けるわけないよな。

<ちょっと!どうすんのこれ!>
「…んー、取り敢えず地道に探してくしかねぇだろ」
<はぁぁ!?>

 何だか急に襲ってきた疲労感にダルさを感じた俺は、ついテキトーに答えてしまった。答えてからハッとする。ワナワナワナと、俺の中で怒りを露わにするもう一人を感じた。ああヤバいと感じた時には既に遅く、冒頭のやり取りに戻る訳だ。
 この調子で俺はこいつの中にいないといけないのか?て言うか動かすの俺だし、困ったもんだ。そんな先行き不安のから思わず漏れた溜息を、このキャンキャン吠える美少年の中身――三鷹弥一が咎め、また俺と口論になる話は面倒なので省略したいと思う。


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