親衛隊隊長を代行します | ナノ
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「はは!なーにむくれてんだよ」
「……別に」
「別にって顔じゃねぇじゃん」

 一人ムスッと食堂で昼飯を食べていた俺は、突如前に座って来た岩槻に一瞬目を瞠る。だが直ぐにそれもどうでも良くなって引き続きムスッと不貞腐れる。

<ちょ、岩槻様にそんな態度とったらド突かれるよ!?>
(だったら俺もド突き返すわ。全国三位の腕を舐めんな)
<え、三位……?>

 言うつもりはなかったが、俺の高校、空手めっちゃ強いんだよね。そんで俺は一年ながらに試合に出してもらった。そこでの結果は三位。いやー俺みたいなヤツは誰も注目してないかもしれないが、地元では結構俺空手少年として有名だったんだ。
 みたいな事を陽気に三鷹に告げると、本当に驚いているのか、凄いと呟いた。

(つってもこの身体だし。ひよこパンチじゃきかねぇよな)
<な!誰がひよこだ!>
「さてはお前、変な競技に当たったんだろ」
「うげ…」

 何てピンポイントで当ててくるんだこいつ。俺の反応を見て当たりだと分かったのか、満足そうに笑った岩槻は何に出るのかをしつこく聞いてきた。

「うっせ!何でもいいだろ!つか何で前に座んだよ。向こう行け向こう!」
「空いてるんだからいいだろ。それに会計もいねぇし」
「はあ?藤島くん?」
「アイツ居ると煩いから。お前に近付くなって」

 そうか?と首を傾げる俺に、そうそうと首を振る岩槻。よく分からんが、俺が答えるまでコイツは此処を動きそうにない。渋々と、俺は自分の出る競技を岩槻に教えた。

「借り物競争」
「は?」
「だから!借り物競争これオンリー!」

 ホント何なんだよ!何でよりによって借り物競争!?
 別にくじ引きで決めたとかじゃない。もう自然の流れで何故か「じゃあ三鷹は借り物競争な」みたいな感じになってたんだけど。どうなってんだよ三鷹のクラス!反論の隙も与えられなかったからね。

(アイツらぜってー三鷹様の運動能力舐めてるよね!大分貧弱なだけだからね!ホントマジ見せつけてやっからな!)
<僕にとっては今一番お前がムカつくけどね。さり気に僕を馬鹿にしないでくれる!?>
「ははは!お前借り物競争ってガラかよ!!」
「笑い事じゃねぇよ!」

 つかそんなの俺が一番言いたいわ!俺はリレーとか騎馬戦とか棒倒しとか、そう言う熱くなる競技に出たかったのに。

「成る程ね、だからブスッとしてた訳か」
「まあ、もういいけど。借り物競争で一位になればこのイライラも治まるだろ」
「けど此処の借り物競争はエグいぞ?」
「……ん?」
「だから、エグいぞ」

 借り物競争に相応しくない単語が聞こえた気がして思わず聞き返す。エグい?エグいってなんだ。だが岩槻はそんな不穏な言葉だけ残して、席を立った。

「お、おい!」
「悪い。お前が面白い顔してるから少し寄っただけなんだ。またな」

 そのまま手をヒラヒラさせて岩槻は去って行った。マジでアイツは何だったんだ。つか、そんな顔してたのか俺は。

(つかエグいってなんだよ三鷹)
<エグくないよ。ちょっと借りる物が変なだけ>
(変って何だよ!)
<もう何でもいいでしょ!ウジウジしてないで頑張りなよ!>

 三鷹はそう言うが、この学園の体育祭ってだけでヤバく聞こえる。何か余計にやる気がなくなって来た。ハアッと重い溜息をついて、俺は頼んだパスタを口に運ぶのだった。


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