親衛隊隊長を代行します | ナノ
2

 轢かれて意識を失い、目の前が真っ暗になってからどれ位経ったのだろう。
 目を開けても閉じても闇。ぼんやりとする思考の中、改めて感じた。ああ、自分は死んだのかと。何とも呆気ない終わりだった。これから一体、俺はどうなっていくのだろう。でも今はいいや、何か眠い。そう思って、考えることを放棄した。いいんだ、きっと時間はたくさんある。今はこのまま寝ていたい。どうせ、死んでんだからいいだろ。そう思って意識を深く沈める。しかし、それは起こった。永遠に続くと思っていた時間が、突如として終わりを告げたのだ。
 ――強烈な、脳天から突き抜けるような快楽によって。


「っ、ひあぁ…!え、あ、なあっ!?」


 頭がイかれそうなくらいの快楽に目の前がチカチカする。そして口から漏れ出た自分とは思えない嬌声。それだけで俺の頭を混乱させるには十分だ。あれ?つか今の俺の声か?状況が理解できず、天井を映していた視界を、そのまま下に向ける。すると、男と目が合った。え、目が合った?
 ふぇ…?と呂律もよく回らない口から間抜けな声が出た。だって、オカシイだろ。何でそんなとこに人がいんの?何で俺素っ裸なの?何でそんな俺の足の間にこいつ居るの?つか腹んとこ、白いドロドロしたもんがついてるんだけど、これ何?
 浮かび上がってくる疑問の数々。しかし、それを吹っ飛ばすほどの快楽が、またやって来た。下からせり上がってくる。それで漸くこの快楽の正体が分かった。

「あっん、や、やだッ、ひっ、あ、やめっ…!」
「いれただけでイッちゃう様な淫乱が、今更何言ってるわけぇ?」

 俺の思考を邪魔するほどの快楽を与えてくるのはこの男だ。俺の股の間に居る男。そして俺の尻に凶器を……自分のちんこを突き立てている。その光景を見て漸く分かったんだ。自分が、こいつに犯されてるって。男の俺をだ。これが絶望せずに、拒絶せずにいられるか?だから力の限り暴れた。手を足をバタつかせ、至近距離で己を見下ろすその無駄に綺麗な顔した男の手から逃れようと、とにかく必死になった。しかし、動いて余計に力をいれれば自分の中にある異物の形まで分かるぐらいに締め付けてしまい、余計に身体から力が抜ける。そして面倒臭いとばかりのそいつは、俺の両手を拘束し、腰を振る動きを強めた。もう、それだけで俺の口は開きっ放しだ。

「ひんっ、や、やだ、動く、なっあ、あっ」
「なら、もうリョータに手出しすんな。じゃなきゃ親衛隊は解散させるから」

 なに、こいつ何言ってんの。訳分からん。誰だよリョータって。俺もリョータだっつの。つか腰振んな。ああ駄目だ。もう気持ち良すぎて何も考えられない。

「あっん、くそっ…んんッ」
<ちょ、ちょっと!何なんだよお前!!>
「ひっ!だ、だっれ?」
「…っ?なに、頭おかしくしたぁ?」

 身体が、視界が揺さぶられる中、突如として頭の中に声が響いた。しかも目の前の男には聞こえていないようだ。男の言うとおり幻聴が聞こえるほど頭おかしくしたのか?

<悠生様っ、そいつは僕であって僕じゃありません!>
「うあ…ッな、なんなんだ、よ…っ」
<それはこっちのセリフ!僕の身体返せ!>
「んっ、あ、ぼくの、ん、からだぁ?」
「ねえ、ホント大丈夫?」

 俺の様子に、男がピタリと動きを止めた。その瞬間、俺は頭の中で響く声に対する恐怖よりも目の前の男への怒りが上回った。そして拘束力の弱まった今がチャンスと言わんばかりに力一杯手を振った。こう見えて俺は空手の有段者だ。己がピンチな時に使わずしていつ使う。その思いで、相手の横顔に一発ブチ込んだ。

「ッが…!」
「いってぇぇぇ!」
<ぎゃああ!悠生さまぁぁ!>

 な、何だ。殴ってこんなに拳が痛いなんて初めてだ。力も入り辛かったし、何なんだ一体。そんな俺の思いはともかく、見事ヒットした拳によって相手がベッドから落ちる。その拍子に俺に突っ込んでいたナニも抜け「ひんっ!」と情けない声を上げるも、俺はふらつく足取りでベッドから降りた。ベッドから落ちて床で伸びてる相手が起きないうちに部屋を出ようと思ったが、全裸の俺は玄関前で足が止まる。ああ、何で服がねぇんだ!

<このっ、悠生様によくも…!>
「ッ、た、のむから喋んな!」

 尚も響く声に思わず顔を顰める。とにかく服を着なければ。そう思いベッドの所に戻ると近くに白いワイシャツが落ちていた。もう仕方ない。あれでいいか。

<っ…まさかお前、その恰好で出る気!?>
「うるせぇなそうだよ。つか喋んな」
<馬鹿か!僕の身体に何かあったらどうするつもり!?>

 はあ?何言ってんだこいつ。白いワイシャツに袖を通し、バタバタと玄関へ向かう。途中廊下にあった姿見の前を通る。ん?
 そこで違和感に気付いた俺は、数歩後ろに下がり姿見の前で静止。そこに映る姿を見て思考が停止。そして五秒後、シャウトした。


「なあぁぁぁ!?なんじゃこりゃあぁぁ!?」


 そこに映っていたのは、紛れもない少年。
 しかしそれは見慣れたはずの自分の姿ではない。
 清廉そうな小柄の美少年の姿だった。


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