親衛隊隊長を代行します | ナノ
4

「なあ三鷹」
<何?>
「俺って隊長らしいことしてる?」

 藤島くんと映画に行った次の日。俺はふとそんなことを思った。
 率直に三鷹に聞いてみる。

<全然。そもそもお前悠生様の動向とかチェックしてないでしょ>
「動向!?そこまで把握すんの!?」

 それって最早ストーカーじゃね?と思う俺に対して、三鷹は違う!悠生様に何かあったら心配なだけ!っと、お前は母ちゃんか言いたくなる答えが返って来た。過保護過ぎんだろ。けど俺は俺で放任過ぎるのかもしれない。仕事と言う仕事はランチ会に顔を出すぐらいだし。

「あれ?俺って何もしてない!?」
<今更気付いたの?遅くない?>
「何だよ。気付いてたんなら言えよ」
<言ってるよ!お前が全然聞かないだけでしょ!>

 プンプン怒り出す三鷹に言われ思い返すと、確かに小言の様な事を毎回言われている気がする。あくまで俺は小言として処理しているから聞き流していることが多いが、成る程。それか。つまり俺のせいか。

<て言うか、何でまた今更そんなこと思う訳?>
「え?あ、いや、別に……」

 最初にも言ったけどふと思っただけなんだって。俺って藤島くんの役に立ってんのかなぁって考えたら急にそう思っただけ。それを素直に三鷹に告げると、三鷹が固まったのが分かった。

<……悠生様の事を、考えたの?お前が?>
「な、何だよ。悪ぃかよ。つかお前の仕事をやろうと思ってだな!」

 って、俺なんでこんな言い訳始めてんだ?別に間違った事を言ったわけでもないのに、何でこんな必死になってんの?藤島くんのことを考えてたと言うのを改めて聞かれると何だか恥ずかしいから?
 自分自身のことが分からず頭を抱える俺の中で、三鷹が小さく何かを呟いた。俺には聞こえない位、小さな呟きで。

<――鈍感>





「藤島くんが?」
「はい。此処一週間ずっとです」

 そして夏休みも半ばにさしかかったある日、隊員の木村が俺の所へ困り顔でやって来た。何かと思って聞いてみたら、藤島くんのことだった。何でも此処一週間生徒会室に籠りっぱなしらしい。どうやら体育祭が近いから忙しいとのこと。前に比べて他のメンバーも手伝うこともあるそうだが、やはり今生徒会を回しているのは藤島くんらしい。夏休みなのに大変だな。

「全然出てこないの?」
「……はい」
<悠生様……>

 確かにそれは心配だ。けど、俺はどうしたらいいんだ?木村と同じように困り果てた俺に、三鷹が「なにボサッとしてんのさ、馬鹿」と声を掛けて来た。

(え?)
<こないだ言ってたでしょ。役に立つのかどうかって。ほら、さっさと行くよ>
(何処に?)
<悠生様の所に決まってんでしょ!馬鹿じゃないの!>
(馬鹿馬鹿言うな!)

 けど、その通りだ。俺が藤島くんのサポートがちゃんと出来るかは分からないが、三鷹が居るんだ。根を詰めるアイツの所に行くことぐらい別に悪いことじゃないよな。そう自分に言い聞かせながら、俺は生徒会室に向かう支度をすることにした。





 生徒会室のあるフロアに辿り着いた俺は、木村から受け取ったバスケットを片手に生徒会室の前に立った。バスケットの中には食事が入っている。どうやら藤島くんはご飯もあまり食べてないとか。そんなに忙しいのか?まだ体育祭までは一カ月以上あるのに。

<此処を他の学園と一緒にしないで。予算は勿論、誰を招待するかとか会場のセッティングとか全部生徒会を通してからじゃないと決められないの>
(マジか!)
<それを悠生様がほぼお一人でやられてるんだ。忙しいなんてもんじゃないよ、地獄だよ>

 寧ろその状況を放置できる他のメンバーが凄い。樹とか仕事しそうなのに、何か残念だな。

(て言うか、中の藤島くんにどう話しかける?ノックして、もしもーしみたいな?)
<それしかないでしょ。けどやるならもっと品のある感じでやってよね!>

 何だ品のある感じって。難しいだろ。つか俺が野蛮とでも言いたいのかこの野郎。引っかかる部分はあるが、俺は構わず扉をノックした。返事はない。

「あー、藤島くん?俺、三鷹ですけどー。居ますかー?」
<ちょっと!もっと真面目に言ってよ!>
(お前さっきから無茶ばっかだな!真面目に言えって何だよ!)

 中の三鷹が煩い。けど、俺がそう部屋の中に向って声を上げた瞬間、中で盛大に音がした。何やら慌てている様なそんな足音が聞こえて来て、三鷹と二人首を傾げる。そして数秒後、扉が勢いよく開かれた。

「み、三鷹くん!?」
「よ。差し入れ。木村からね」

 そして、少しだけ疲れ気味な藤島くんが顔を出した。

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