親衛隊隊長を代行します | ナノ
2

「悠生!何してんだよ早く来いって!」
「ちょ、ちょっと引っ張らないでよー……」
「おい亮太。何で悠生にばっか構ってんだよ」
「俺、寂しい」
「藤島先輩どっか消えないかなぁ」
「そんなのにくっついたら病気が移りますよ」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎながら街中を闊歩するは、金城学園の生徒会役員と転入生。何分転入生の声が皆の三割増し位大きいから皆の注目をとても集めてる。まあその容姿のせいでもあるかもしれない。と言うか――。

(誰、あれ)
<あれが佐伯亮太の本当の姿……>
(本当の姿って、その言い方なんか中二っぽいッ!)
<笑い事じゃないでしょ!?>

 三鷹がプリプリと怒っているが、俺に怒られてもなぁ。
 そう、何と今俺達の前を歩く転入生の姿は、学園で見るあのマリモ姿じゃなくてサラッサラのハニーブラウンの髪を靡かせる超美少年の姿なのだ。マジ誰あれ状態。だが役員たちを見る限り彼らは知っていたのだろう、佐伯が本当はあのような姿だと言うのを。恐らく藤島くんも。

(けど、だからってどうしてこうなった……)
<僕が聞きたいよ…悠生様とのデートだったのに>
(デートじゃねぇよ)

 俺は今日、藤島くんに誘われて映画館に行く予定だったはず。いや、今現在も向かっているのだが、俺が言いたいのは何故こいつらがついてくるんだと言うことだ。と言うか俺達が学園を出ようとした時に鉢合わせして佐伯が俺も映画行くってなって、何故か一緒に行動していると言う摩訶不思議。

(映画行くって言うか、藤島くんと遊びたいだけだろ、あれ)

 皆と少し離れて後ろを歩く俺は、学園からずっと藤島くんにくっつきっぱなしの佐伯と、何だか疲れた様子の藤島くんの後姿を見ながらそんなことを考えた。何かモヤモヤすんなぁと思っていると、中で三鷹がねぇと声を掛けて来た。

<……面白くない?>
(は?)
<あの二人見て、面白くないの?>

 質問の意味が分からない。面白くないって何が?

<眉間の皺、すごいけど>

 そう言われて俺は眉間に手を伸ばす。確かに三鷹の言う通り、眉間に皺が寄っている。それを不思議に思いもみもみと眉間を揉むが、皺が一向にとれない。

(何でだ。悪い三鷹。お前の眉間には深い皺が刻まれることになりそうだ)
<はあ!?何それやめてよ!って、そうじゃなくてさ…!>
「――ねえ、アンタ何百面相してんの」

 真横から掛けられた声に思わず顔を上げると、いつの間にか俺の横に庶務が歩いていた。と言うか俺、庶務に会ったの初めてなんだよね。三鷹によると一学年下らしい。そしていつも転入生達と一緒に行動している訳ではないと。でも佐伯を好きなのは間違いないと思うから油断できない。だからか思わず刺々しい言い方をしてしまう。

「別に。何、何か用?」
「別に。何か後ろ付けてくるからストーカーか何かかと思って」
「はあああ!?」

 別にって返しを別にで返され、挙句の果てにストーカー呼ばわりだと!?何コイツ腹立つ!

「誰がストーカーだ!俺は藤島くんと遊ぶ約束してたからこうして映画館に向ってるだけだ!」
「へえ。じゃあ何でそんな離れて歩いてんの?」
「……あんな目立つ集団と一緒に歩きたくねぇ」

 実際佐伯も目立つが、他のやつ等も中々目立つ。このムカつく後輩も含めてな。だから俺は離れて映画館に向ってるだけだ。それに対してとやかく言われる筋合いはない。だがこのムカつく後輩はふーんと興味なさげに呟き、そして何故か俺の腕を掴んだ。

「っ、ちょ、お前何して……!」
「でもさ、自分も目立つ部類の人間だって自覚しなよ。周り見なさすぎ」

 言っている意味が分からず思わず噛み付こうとした俺を、中で三鷹が止めた。

(何だよ!)
<今気付いたけど、僕たちの後ろ見て>

 そう言われ俺は後ろを振り返った。そこには悔しそうに顔を歪める親父たちが俺を見ていた。え、何アイツら。雰囲気が大分やばい感じだけど。
 だが俺は気が付いた。そうだ、この身体は三鷹の身体だ。つまりは美少年。女顔。そんなヒョロイやつが一人でフラフラ歩いてたらそりゃあその手の輩に目を付けられるよな。俺が一人で歩くのとは訳が違うんだ。そうと分かれば物凄くコイツに対して悪く感じた。ちょっとイライラしたのもあって周りを見ていなかったのは俺の方だし。

「あのさ…悪かったな。ありがと」

 俺は自分の腕を引っ張る後輩に向って、素直に謝罪を述べた。しかし俺の謝罪が意外だったのか、後輩が目を微かに見開き、意外…と口にした。

「もっと高慢で絶対お礼とか言わないイメージだった」

 三鷹。お前どんだけ周りに高慢なイメージ振り撒いてたんだよ。もう何も言えないわ。

「でも何で俺を助けたんだよ。俺、佐伯からめっちゃ嫌われてるからお前にとっても邪魔だろ」
「邪魔なのはアンタだけじゃなくて皆だけど」
「マジか」
「でも、それとこれとは別。偶々俺が変態に目を付けられたアンタを見つけて、それを見捨てるのは後味悪い」

 だからお礼言われることでもないから。
 そうぶっきら棒に言って前を向いてしまう後輩に、何だかくすぐったい気持ちになる。何だろう、此処に来て初めて後輩と触れ合ったからかな。こんなくそ生意気な後輩、俺の高校にはいなかったけど。

「なあ、お前、名前は?」
「は?何で」
「教えてよ、名前」

 三鷹に聞けば一発なのに、何だかこの後輩から直接聞きたくなった。そいつはあまり自己紹介が得意ではないのか、少し照れたように、そしてやはり顔を背けながら小さな声で言った。

「――栗山樹」
「栗山、ね」
「……俺栗嫌いだから名前で呼んで」

 どんな理由だ。
 案外子供っぽいこと言うから、俺は思わず吹き出して笑った。





 俺達が少し遅れて映画館につくと、映画館の前でやつらは待っていた。そして藤島くんは俺の姿を見るなり駆け足で寄って来た。かなり不機嫌そうに顔を顰めながら。

「何処行ってたの、て言うか何で樹と一緒に居るの?」

 そして俺の腕を未だ掴んでいた樹を睨み、その手を強引に外させた。樹も藤島くんの行動に驚いたようで目を瞬かせていた。でもいくら何でも乱暴だろ。俺は思わず抗議の声を上げた。

「おい、いきなりなんだよ」
<ちょっ、香坂落ち着いて!>
「何って……別に何も」
「お前何怒ってんの?こうして合流できたんだし、そう怒るなよ」

 それに勝手にツカツカ歩いて行ったのお前らの方だろ。
 思わずそう抗議すると、藤島くんがグッと唇を噛んだ。その表情を見てしまったと思うが、間違った事を言ったつもりもない。俺と藤島くんの険悪なムードに、三鷹が珍しく俺を怒る訳でもなくオロオロしているのを感じた。そして俺達が無言で突っ立っている間に、チケットを持った佐伯達が此方へやって来た。

「あー!樹!何処行ってたんだよ!」
「すいません。ちょっと色々ありまして」

 本当に申し訳なさそうに謝る樹は、先程の生意気な態度など全く見せない。何だこの猫被りと思わずジト目で見てしまう。そんな俺の視線に気づいたのか、樹が鼻で笑った。クソこいつ!

「それよりほら!引けよ悠生!」
「は?」
「みんな同じ並びにしたんだ!好きなの引いていいぞ!」
<何言ってんのこのマリモ!>
(今はマリモじゃねぇよ)

 だが頭を抱えたくなったのは俺も同じ。おいおいマジかよ。映画まで同じの見るのか。しかも同じ並びで。どうやらもう一緒に遊ぶのは決定事項らしい。思わずため息が出る。すげぇ帰りたい。

「亮太、チケット返して」
「な、何でだよ!」
「何で態々会長たちと肩を並べて映画鑑賞しなくちゃいけないの?俺は三鷹くんと……」
「おい悠生。どう言う意味だ」
「私だって出来たら亮太と二人で見たいですよ。ですが亮太がこうしたいと言うのならそれに従います」
「誰が亮太の隣になっても、恨みっこなし…」
「そう言うことじゃなくてさぁ」

 苛立った声を藤島くんが上げた時だった。ニュッと佐伯の手からチケットが抜かれた。その方向を皆一斉に見た。そこにはチケットを手にした樹が欠伸をしながら立っていた。まあ、そうだよな。ただ映画見るだけなんだし、誰とどう見ようが関係ないか。もう一々このマリモにイラついてても仕方ない。そう思うことにして、俺も佐伯の手からチケットを取った。

<なっ!>
「ちょっ……」
「よし!皆も取れ!」

 三鷹と藤島くんが声を上げた気がしたが、俺はあえて気にせず樹の傍に寄った。

「お前の席どうだった?」
「ん」
「あ……マジで、俺の隣じゃん」

 差し出されたチケットを見ると、俺の隣の席だった。まあ役員の中で隣になってもいいと思えるのはコイツしかいなかったから良かった。安堵の息を吐く俺の後ろで、佐伯が「やった!悠生の隣だ!」と大喜びする声に、心がざわついた。
 くそ、何かホントイラつく。内心打った舌打ちは、三鷹にしか届かなかった。


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