親衛隊隊長を代行します | ナノ
20

「どうしてですか?何で突然辞めるなんて…」
「アイツらの言う通りだからね」
「え?」
「僕は穢れてるんだ。そんな僕が、大陽様の近くに居ていい筈なかったんだ」

 そう言って顔を歪めた先輩は、自分の手の平に視線を落としながら、ポツリポツリと言葉を吐き出す。その様子が少し苦しそうで、俺まで胸の奥が締め付けられた。

「穢れてるだなんて、そんな事…」
「あるんだよ」

 色々な意味でね。そう自嘲気味に呟いた先輩は、話はそれだけと言って俺に背を向けた。

「ちょ、今のが理由ですか!?」
「もう僕からお前に話すことはない」
「待って下さいよ。そんなんじゃ納得出来なッ…」

 トンッと、先輩の綺麗な指が俺の口元に当てられる。
 それ以上何も言わないで。口にしなくとも、先輩の目がそう言っていた。そして今度こそ俺に背を向け出て行ってしまう。俺はその背をただ見送るしか出来なかった。

「っ、なんで…」

 思わず拳を握る。そしてハッとした。
 もしかして、先輩が辞めるとか言い出したのは俺のせいか?昨日俺が、何か無神経なことでも言ったから……。

<そんな訳ないでしょ!>
(――!)
<昨日のお前の言葉はちゃんと先輩に届いた!>

 頭の中でグルグルしていた思考が、三鷹の声で吹っ飛んだ。中で響く声、そして俺の心にも響いてくる三鷹の声に、俺は耳を傾けた。

(でも、あんなに会長が好きなのにどうして…)
<それを僕らが知ってどうするの?>
(え?)
<先輩が自分でやったことに、僕らが口を出すの?>

 三鷹の言葉に、思わず言葉を詰まらす。返す言葉がない。だって、先輩の選択が間違っているとは言えないからだ。

<先輩は確かにプライド高くて性格悪いかもしれない>
(いや、俺そこまで思ってない)
<でも、責任感は誰よりも強い。会長を護ると決めた以上、きっと親衛隊以外の道を見つけられる根性はあると思う>
(……うん)
<だから、親衛隊辞めた位でどうにかなる人じゃないよ!お前は気にし過ぎ!>

 確かにあの喜多村先輩がずっとこの先落ち込んで地味に過ごすようには見えない。

<大体、自分で言った事も忘れたわけ?>
(え?)

 三鷹の呆れ声を聞いた俺は、そう言われ少し記憶を辿る。

『つーか親衛隊親衛隊って、そんなもんがなきゃ人を好きになっちゃいけないのか?』

 ああ、うん、言ったわ俺。大分キレ気味に言ったわ。でも、自分で言った事を忘れてしまう程、俺は考えに余裕が無かったのかもしれない。

「お前、何百面相してんの」
「うわっ!岩槻!」

 そんな時だった。ひょいっと俺の視界に岩槻の顔が映り込んでくる。思わず後退る俺を余所に、岩槻はその大きなリアクションに笑った。

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