親衛隊隊長を代行します | ナノ
19

「それで?他には何もなかったのか?」
「ああ。お前らが来てくれたからな」

 風紀室へと場所を移動した俺は、現在取り調べを受けている。勿論昨日のことについてだ。でも俺が述べられるのは精々追い掛けられた経緯と何されたかだけだ。そして全てが未遂に終わったともなれば、アイツらの処分もそう重いものにはならないだろう。そう考えていた。
 しかしこの学校はどこまでも俺の予想の斜め上を行くのだと、すぐ思い知らされた。

「それとあの男達の処遇についてだけど」
「ああ、謹慎とか?」
「いや。退学の方向で進めようかと思ってる」
「は?」
<まあ、妥当だろうね>

 退学?え、マジで。つか進めようと思うって、お前が決めるもんなのそれ。俺の戸惑いに気付いた三鷹が、生徒間のトラブルが起きた場合、その処遇は風紀が受け持つことになっていると教えてくれた。何それ、どんな学校だよ。

「いや、でも退学はいくら何でも…」
「もしお前があいつらを許したのだとしても、今まであいつらにいい様にされてきた者はそれでは報われない。これを機に、この学園を去ってもらう」

 岩槻の言葉に迷いはない。そして俺も、それには返す言葉が無かった。

「ああ言う輩はもう改心は難しい。今まで何回も違反を繰り返している。叩けばもっと色々出てくるだろう」
「それは、未遂で済まなかった子もいる……って事か?」

 コクリ、岩槻は小さく首を縦に振った。実際、俺以上に怖い目に遭った子が沢山いる。それを聞いたら、流石の俺もアイツらを庇う気にはなれなかった。

「そっか…」
「そして今回の原因でもある喜多村隊長は一週間の謹慎だ」
「は!?何で!?」

 納得できず、思わず机を叩いて詰め寄る。岩槻が一瞬何言ってんだコイツと言わんばかりの目で此方を見てきたが、小さく溜息をつくと、事も無げに言った。

「今言ったろ。原因だって」
「そ、それは、先輩が俺を呼びだしたから?」
「ああ。それに、お前も呼び出されたからには何をされるか分かってたろ?それを手引きしたヤツが罰を受けるのは当然だ」

 そう言われて、俺はまた何も言えず黙る。先輩も被害者だと思ってた。それにあの時は先輩を助けようと必死だった。けど、ああなる原因を作ったのは紛れもない先輩だと言うのは、確かにその通りだ。先輩が最初から話し合いで済まそうと思っていれば、あんなやつ等の手を借りる必要は無かっただろう。
 けど、だからと言って直ぐには割り切れない。俺の複雑な表情に気付いたのだろう。再び小さく息を吐いた岩槻が、「そう言えば」と突然話し始めた。

「お前と話したいってやつがいたんだ」
「え?」
「入っていいぞ」

 入口の方へ声を掛けた岩槻。そして間もなくして扉が開かれる。そこに入って来た人物に思わず目を瞠る。

「あ…」
<喜多村、先輩>

 なんと入って来たのは今しがた話した喜多村先輩本人だった。目を丸くして先輩を見つめる俺の元へ、先輩が歩み寄ってくる。

「…身体は、平気なの?」
「え?ああ、はい。平気です」

 何て、結構強く壁に打ち付けられたから痛いけど、動けない程じゃないし、態々言う程のことではない。そう思って笑顔で答えると、先輩はそう…とだけ呟いた。何だ、何でそんな暗い顔してるんだ。

「先輩?どうし――」
「僕。親衛隊をやめる」

 俺の言葉を、喜多村先輩の凛とした声が遮った。その声色にあまり迷いは感じられない。思わず耳を疑ったが、中で三鷹が再度呟いたため、やはり聞き間違いではなかったのだと悟る。


<やめる…?親衛隊を…?>


 大好きな人のもとを去る。
 それは一体どう言う気持ちで出した答えなのだろう。


prev next


bkm

top