親衛隊隊長を代行します | ナノ
18

 ――俺は今、最大のピンチを迎えている。

「ねえ、何で逃げんの?」

 俺を自身と壁の間に挟み込んでくるのは、事の元凶、藤島悠生だ。

「答えてよ」

 急かす様に俺に顔をグッと近づけてくる藤島くんに、俺は何も言えず顔を俯かす。一体何がピンチで何故こうなったのか、それを説明するには昨日俺が事件に遭った日の夜にまで遡る。





『大丈夫、間違ってないよ。俺が保証する』
『絶対、護るから』

 俺はベッドに寝そべり、天井を仰いでいた。そして何故か、今日アイツに言われた言葉が、頭から離れない。それどころか、アイツの声、表情を思い出すだけで、不思議と胸の奥が熱くなる。

「何だこれ…」

 訳が分からず思わず呟く。何だろう、風邪でもひいたか?まあ色々あったしな。

「…寝れねぇよ」

 目を閉じれば今日の事ばかり。そして考え出せば浮かぶのは藤島くんの事ばかり。そして藤島くんを思い出せば身体が変だしもうなんかイヤ。三鷹に話しかけたものの、もう寝てしまったのか、俺が部屋に送ってもらった辺りから返答がない。
 いつもと少し様子が違ってちょっと心配だ。この身体に無理をさせたのは俺だし。

(明日、もう一回ちゃんと謝ろう)

 そう思いながら、俺は静かに目を閉じた。





<ちょっと!お前何してんの!?>
(う、うっせぇ!身体が勝手に動いたんだよ!)

 ところが迎えた翌日。俺に異変が起きていた。もう三鷹に謝るどころじゃなくなった。
 心配で俺の様子を見に、朝部屋まで来てくれた藤島くんの顔を見た瞬間、俺は全身が熱くなり、そして気付けば彼に背を向け走り出していた。ホント何故。あまりに突然で藤島くんは勿論、俺も中で起きていた三鷹も皆驚いていた。

<今すぐ戻ってよ!>
(む、無理…!)
<はあ!?>
(今戻ったら俺爆発する!)
<何それ!意味わかんない!>

 いや、俺も意味わかんないよ。何でこんなに心臓がバクバク言ってんの!?マジ病気じゃねぇの。そう思って三鷹に健康かどうかを聞いたらめっちゃ怒られた。
 そしてそれからと言うもの、藤島くんに会う度に俺はその場からBダッシュと言うマジキツい事を朝から放課後までやり続けた。今日なんか皆で昼食会だったのに、藤島くんがいると思ったら足が動か無くなって、初めて俺は欠席した。

<香坂、お前っ>
(だ、だってホント、おかしいんだよ身体。藤島くん見ると、こう…昨日の事とか浮かんできてさ!)
<そ、それって…>

 怒る三鷹に、俺は言い訳がましく聞こえるかもしれないけど本当の事を話した。すると三鷹は少し驚いたように、と言うか動揺したように感じられた。え、何。どうした。
 三鷹の様子に俺まで狼狽えていると、突然放送の呼び出しがかかった。しかも俺。内容は風紀室まで来てくれとのこと。

(これって…)
<昨日の事だろうね。普通ならその日に尋問されるけど、お前のあまりの醜態に今日にずらしてくれたんでしょ>
(わ、悪かったな!)

 確かに酷い醜態を晒した。最後マジ泣きだったし。あんだけ泣いたの何年振りだ?
 そこではたと気が付く。そうだ、俺は昨日、号泣した以外にも色々やらかした。しかも三鷹が見ているのにも関わらず俺は藤島くんに泣きついたんだ。それを三鷹が見ていい気はしない。昨日はいっぱいいっぱいで、朝も昼もごたごたしてたから忘れてたけど、俺は三鷹に謝らないといけない。

(あ、あのさ、三鷹。昨日は、その…)
<謝らないでよ>
(え?)
<昨日の事は、何も見なかったことにするって決めてるから。お前が謝る必要なんてない。況してや、僕の身体を気にする必要もない>
(で、でも)
<ああもう!僕がいいって言ってるんだからいいの!ウジウジモジモジしないで気持ち悪い!>
(何だと!)

 でも、俺ホント調子の良いヤツかもしれないけど、お前にそう言ってもらえて本当に嬉しいよ。本人には言わないけどな。


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