親衛隊隊長を代行します | ナノ
16

 バタバタと、廊下を騒がしく走る俺を、学校に残っていた生徒達が驚いたように見てくる。だがそれに気をとられている場合じゃない。今はただ、アイツらから逃げないと。捕まったら最後だ。この身体じゃ抵抗出来ない。

<こ、香坂!そっちはダメ!>
(ああ!?)
<右曲がって!>
(りょーかい!)

 正直まだ校内を理解しきれていない俺は、三鷹のナビに従って走っていた。と言うか、この身体、貧弱な割に走れるのな。少し意外。だが貧弱なのは変わらないので、徐々にスピードは落ち始める。

(ッ、あー!すっげぇ疲れた!)
<もう少しだから頑張ってよ!次の階段下に行ったら、そのまま外に出れるから!>
(マジか!)

 その言葉に希望を持った俺は、急いで階段に向かった。もう殆どの生徒が寮に戻るか部活に行ったのかもしれない、凄く静かになった。だから、もう少しで外と言うのに気をとられ過ぎていたのかも。
 俺は、階段を降りてすぐの所に隠れていた男に、思いっきりタックルされた。体格のいいそいつに勢いよく当たられた為、一瞬息が止まる。そして壁に叩きつけられた衝撃で身体が動かなくなった。痛い、視界が眩む。

(ぐっ…)
<香坂!>

 三鷹の声が少し遠くて、俺は焦った。ヤバい、意識だけは飛ばすな俺!
 何とか気合で起こした頭。そんなグラグラの視界の中で、男達が俺を囲んだのが分かった。

「たく、手こずらせんなよ」
「つか俺達が二手に分かれたのに気付かなかったんだ」
「誘い込み作戦せいこー!」

 ギャハハハ!男達の下品な笑い声が耳に響く。くそ、最初からこうなる事が分かってたのかこの男ども。地の利はこちらにもあったはず、だけど数だけには敵わなかった。それがきっと敗因だ。

(悪い、三鷹…)
<僕に謝ってる場合!?そんなのいいから何とかこいつ等から逃げないと…!>
「さぁてと」

 グイッと胸倉を掴まれ、無理やり立たされた。急な事で息を呑むと、胸倉を掴んだ男にそのまま頬を張られた。ただでさえ眩む視界に星が散った。ついで唇が切れたのか血か滲み出る。

「おい、あんま傷つけんなよ」
「分かってるって。たださっき蹴られたお礼だよお礼」

 ああ、こいつさっき蹴っ飛ばした男か。そんな事をぼんやりと思っていると、男が張り手をかました頬に舌を這わせてきた。生温かく気持ち悪い感触に思わず身体を震わし、ヒッと声が裏返る。

<香坂ッ!>
「あっれー?感じちゃった?もう待ちきれない感じ?」
「ち、がっ」
<やめてよ!香坂に触んないで!>
「ヒッ!だって。かわいー」
「なあ、早く運んじゃおうぜ」

 気持ち悪いだけだっての!そう言いたいが、何しろ全身が痛くて動かない俺は、それを口にするのもいっぱいいっぱいだ。俺が動かないのをいいことに、男達が俺を抱えて何処かに移動しようとしている。ああくそ、離せ、触んな。
 最後の抵抗とばかりに、俺は身体を捩るが、男達は気にも留めず運んでいく。俺の力じゃ、もう駄目だ。先輩を助けたことは後悔してない。けど、三鷹にこの身体を綺麗に返したかったのに。
 このままじゃ、この身体は――。


「何してんの」


 その声に男達がピタリと動きを止めた。恐る恐る階段の上を見上げる男達に釣られ、抱えられている俺も、ゆっくりとそちらに視線を移した。そして、何故だろう。その姿を確認した瞬間、自分でも不思議なくらい安心感を覚えた。

「その子、離せよ」

 そう言って凄む藤島くんを、俺は涙目になりながら見つめた。

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