親衛隊隊長を代行します | ナノ
15

「ちょ、ちょっと!まだ呼んでないけど!」
「話長すぎっしょ?俺ら待ちくたびれちゃったっての」

 喜多村先輩が男達に吠えてかかるが、下卑た笑みを浮かべたままの男達はどんどん俺の方へ歩いてくる。

「何言っても親衛隊はやめない。ならやる事は一つでしょー?そのために俺ら集めたんだからさ」
「それは、そうだけど…でも、まだ話は終わってない!」
「はあ?話って?お前が会長の親衛隊作った経緯を俺ら聞かないといけない訳!?冗談だろマジで!」
「そんなの決まってんじゃんかなぁ!中三時にレイプされそうになってたところを助けてもらったからだろ!」
「……ッ」

 男達の言葉に、喜多村先輩の顔がサッと青くなる。

「ど、どうしてそれを…っ」
「いやいや、有名な話でしょ。え、なに?隠してたの?だったらごめん言っちゃった!」
「お前まじサイテー!」

 ギャハハハ!と馬鹿笑いする男達の横で、喜多村先輩は身体を震わせていた。知られたくなかった、そう言う顔をしている。

「あーでも、会長はその事知らないんじゃね?」
「――!」
「えーマジで?」

 会長、と言う言葉が出た瞬間、喜多村先輩が男の一人に掴みかかった。

「お、お願いだから大陽様にはその事…!」
「あ?」
「言わないで、お願いだからっ」

 喜多村先輩が叫ぶ勢いで男達に頼み込む。お願い、お願いと言葉を繰り返す先輩の声は実に切実だ。しかし、男達は一瞬驚いた表情を見せたと思ったら、その顔に再び下卑た笑みを浮かべた。

「お前さぁ、こっちに頼む一方で何もくれないじゃん?」
「…え」
「だからさ、こっちのお願いも聞いてくんない?」

 ニヤニヤ。男達が笑いながら先輩を囲みだした。俺や、親衛隊の子達そっちのけで行われるそれに、俺は嫌な予感しかしない。

「な、なに?」
「会長に黙ってる代わりに、ヤらせて」
「……っ」

 先輩の肩に手を置いて、男の一人が直球な要求をした。何と言うか、予想通りの展開だ。こんな単細胞の男達の考える事なんか一つしかないだろ。気分の悪さから顔を顰める俺を余所に、先輩はその男の手を払うと、噛み付く勢いで怒鳴った。

「ふざけないで!何で僕がお前らなんかに……ッ」
「あれーそんなこと言っちゃう?会長に知られてもいいの?アンタんとこの隊長は、他の野郎を誘惑して輪姦された淫乱ちゃんでーすって」
「ま、輪姦されてない!」
「どっちでもいいって」

 どうでもよさそうな男の呟きに、喜多村先輩が食って掛かろうとした瞬間、先輩の後ろに立っていた男が先輩を羽交い絞めにした。

「ちょっ、やめて、離して!」
「あーもう煩いヤツだな。おいお前ら、あそこに運ぼうぜ」
「ああ、あの場所なら誰も来ねぇよな。それに、俺使いたいモノあるんだよ」

 喜多村先輩の周りを取り囲み、先輩の足を持ち上げ何処かに運ぼうとする男達は、俺達の事など忘れているのか、そそくさとどこかへ行こうとしていた。先輩が連れて来た親衛隊の子達は、恐怖からか、固まって全く動けない。助けは期待できないな。
 俺は連れて行かれそうな先輩を呆然と見ながら、三鷹に話しかけた。

(なあ、三鷹)
<……やれば>
(え?)

 三鷹がぶっきら棒に呟いた言葉に、俺は驚きが隠せない。

<どうせ、先輩を見捨てておけないんでしょ?>
(いや、でも、これお前の身体だし。何かあったら……)
<あーもう!僕が良いって言ってんだから早く助けに行けば!?大体、此処で見捨てたら香坂じゃないでしょ!?>
(え…?)
<あ、い、いや、今のなし!何でもない!忘れて!>

 アワアワと慌てだす三鷹に、俺は思わず吹き出す。

<ちょっと!何笑ってんの!?>
(サンキュ、三鷹)
<な…>
(お前が居てくれれば、なんか心強いや)

 そう言って笑えば、三鷹が中で余計に慌てだすのを感じた。

<ななな、何言って……!>
(よっしゃ、いっちょやりますか)

 俺は一度深呼吸をし、先輩の足を掴む男の元へ駆け出した。そして、勢いをそのままに男の背中に蹴りを一発ブチ込んだ。三鷹の身体でも勢いが乗った分、男は思惑通り吹っ飛んだ。

「な、テメェ!」
「先輩」

 男達が突然手を出してきた俺を睨む一方で、俺は地面に落ちた先輩に顔を向けた。目に涙を浮かべて俺を呆然と見る先輩に、俺は笑った。

「本当に会長の事好きなんですね」
「……!」
「その気持ちは、大事にしといて下さいよ」

 そう言って背を向け走り出した俺の後ろには、案の定激昂した男達が追い掛けている。傷だらけにしといてなんだけど、出来るだけ無事にこの身体は返したい。だから、俺は校舎の中に入った。少しでも人の多い所に行こうと思ったから。
 その後ろで男達が密かに笑っていたとも知らずに。


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