親衛隊隊長を代行します | ナノ
14

 最近、藤島くんが熱心に仕事をし始めた。
 そう言う噂が聞こえて来た。いや、事実これは噂などではなく真実だ。今でこそ放棄はしないものの、あまり捗らなくなっていた生徒会の仕事は、藤島くんのお蔭で大分元通りになって来たらしい。
 て言うかアイツ会計だよな。仕事があんま滞ってないってことは、自分の仕事以外もしてんのかな。うーん、自分で言っといてなんだけど、あんま根を詰め過ぎんのもよくないよな。ホント俺が言うのはなんだけど。

(にしてもさぁ、これはこれで変わり身早いんでない?)
<……悠生様が今は見てないからね。絶好のチャンスでしょ>
(だからって本当に来るとは思わなかったわ)

 俺と三鷹は、目の前でキャンキャン吠える親衛隊所属の男達を呆れたように見て思わず重い溜息を吐いた。あれから一週間経った今日、その藤島くんの噂を聞くと同時に俺は呼び出された。この喜多村先輩によって。先輩を含め周りには三人ほどの男達が囲っている。

<気を付けて香坂。たぶん後ろには体格のいい連中がいるから>
(マジか)

 三鷹の呼び掛けに、俺は視線をソッと先輩たちの後ろへやる。ああ、確かに木の陰から此方を窺うやつ等が居る。

(なに?もしかして俺これからリンチにでもあうの?)
<リンチだけならいいけど、あの下卑た顔見ると違うんじゃない?>

 そう言われて納得。確かに目が血走ってヤバい。絶対リンチ目的じゃない。

(さて、どうする?)
<タイミング見計らってとにかく逃げよう>

 それには俺も賛成。正直この体格で勝てる気がしない。俺の身体だったら打ちのめす事出来んだけど。流石に全員は無理だ。

「ねえ、聞いてるの」
「え?あ、すいません。何ですか?」
「ふざけてるの…?」

 俺が素直に聞いてない事を謝ると、喜多村先輩がそれはそれは怖い目で睨んで来た。いや、マジですいませんて。

「今すぐアンタは隊長をやめて。さもないと……」
「あー、すんません。それは無理です」
「はあ?」
「もう、俺だけで判断するわけにはいかないんで」

 そう言って笑うと、中で三鷹が俺の名前を呟いた気がした。大丈夫、もう間違えねぇよ。お前の意志は尊重する。
 俺の回答が予想外だったのか、喜多村先輩は更に目を吊り上げ俺を睨んできた。

「アンタが転入生への制裁を止めるとかほざいたせいで、アンタの親衛隊だけじゃなくて他の親衛隊にまでそれが広まって来てる!」
「へえ。良いじゃないですか」
「良いわけない!それじゃああの転入生を大陽様から離せない!」

 そう言って叫ぶ先輩の目は本気だ。本気で、あの転入生を潰したい。そう言ってる。そしてそれの邪魔になる俺は早々に消したいわけだ。

「いい?最後にもう一度だけ聞くよ?会計様の親衛隊隊長の座を降り……」
「つーかさ先輩。なんでそこまで本気になれるのに、その本気を会長本人に伝えない訳?」
「え?」

 先輩の言葉を遮って俺が話し出した為か、皆驚いたように俺を見ている。先輩は先輩で、言われている意味が分かっていないようだった。

「だからさ、どうして転入生をどうにかした方が早いと思うんだ?」
「な、に言って」
「会長をどうにかしようと思わなかったのか?」

 俺の言葉に、全員息を呑んだ。

「大陽様を…?」
「そうやって会長たちに近付く連中を片っ端から潰していって、結局最後に何があんの?会長から褒めてもらえたりすんの?」
「――っ!」
「どうして、その本気を会長にぶつけられないんだよ」

 喜多村先輩が目に見えて動揺する。考えたこともなかった、そんな顔だ。

「制裁が終わって最後、会長はどんな目でアンタを見てたんだ?」
「ッ、あ、大陽…様…」

 喜多村先輩は思い出しているのだろう。最後に見せた会長の顔を。それは先輩だけじゃない。恐らく三鷹も思い出しているのかもしれない。一瞬、三鷹の心が恐怖で震えたから。伝わって来たのは、失望、侮蔑、そして怒り。それに恐怖し悲しみにくれる三鷹の気持ち。
 こんな思いをしてまで、転入生は消さないといけない相手なのか?

「先輩のやり方は、間違ってる」
「……っ」
「間違ってるよ」

 静かに、ポツリと呟いた言葉。でも、俺が一番言いたい言葉だった。
 藤島くんだって、向かい合って漸く通じたんだ。本人と向かい合うのを避けてたって、何も変わらない。ましてやその方法が非人道的な行為であればあるほど、その人は遠く離れて行ってしまう。気付いた時には、もう遅い。
 すっかり黙り込んでしまった先輩や、周りの親衛隊の子達。今こそ逃げるチャンスだけど、流石に此処で逃げるのは違う気がする。それじゃあ俺の気持ちはこの人たちには伝わらない。

「そもそも先輩は、どうして会長の親衛隊に入ったんですか?」
「……」
「つか作ったの先輩か?ならさ、どうして作ろうと思ったわけ?カッコイイから?好きだから?」
「僕、は…」
「――おいおい、お喋りはもういーだろ」

 喜多村先輩が話しだそうとした時だった。先輩たちの後ろから、先程から隠れていた筈の体格のいい男達が空気を読まず出て来た。
 て言うか存在を忘れてた。けどそれは先輩達も一緒かもしれない。
 あ、居たんだっけ。みたいな顔してる。

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