親衛隊隊長を代行します | ナノ
13

 三鷹も俺も、ただ黙ってその真っ赤に染まった顔を見つめるしかない。それ位衝撃だ。そして、漸く動けたのは、その顔を真っ赤にした本人がポツリと呟き出してからだった。

「ねえ、三鷹くん……」
「え、あ、なに?」
「今俺、どんな顔してる?」

 尚も赤い顔の藤島くんが恥ずかしそうに聞いてきた。俺はその質問に若干の答え辛さを感じながらも、正直に告げた。

「すっげぇ赤い顔」
「だ、だよねぇ」

 言われた本人は分かっていたのか、両手で顔を覆ってその場に座り込んでしまった。突然の行動に、具合が悪いのかと思った俺は慌てて近寄る。

「え、お前熱でもあんの?大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」
「マジで!?えっと、じゃあ先生呼んで――」

 最後まで言い切る前に、藤島くんが俺の腕を掴んで首を横に振った。そうじゃない、と。取り敢えず具合が悪いわけではなさそうで良かった。

「今までだって、数え切れないほどあった」
「え?」
「三鷹くんからだって、初めてじゃないよねぇ…そう言ってもらうの」
<悠生様…>

 片手で額を押さえる藤島くんの表情は、本当に参ったと言わんばかりの顔だ。

「なのに、何でかなぁ。今の殺し文句はかなりキた」
「――!」
<……>
「ホント、心臓煩い」

 そう言って胸を押さえながらはにかむ様に笑う藤島くんを、俺は呆然と見つめた。掛ける言葉が見つからない。中の三鷹も珍しく静かだ。
 何、どういう事。俺はそれになんて返すべきなんだ?大体殺し文句ってなんだ。俺はそんな事言った覚えないぞ。と、そこまで考えてフと先程のやり取りを思い出す。三鷹が藤島くん一筋だと言ったのを、俺はあくまで代弁しただけだ。そう、そのまま口に出した。


『お前しか見てないよ』


 自分の頭の中でそれを反芻させ、その意味について考える。

「ッ、ほわああああ!?」
「三鷹くん!?」

 その数秒後、あまりの恥ずかしさに奇声を上げて叫んだ。そして藤島くんに掴まれていた腕を振りほどき、凄い勢いで後退る。俺は今更ながらに自分の言った事の恥ずかしさに気付いたのだ。今まで静かだった三鷹がその奇声に反応したのか、呆れた溜息が聞こえた。

<だから言ったじゃん…恥ずかしいって>
(お前ッ、そう言うの早く言えよ!)
<だから言ったでしょ!?>
(うわーうわーどうしよ!俺めっちゃハズい!何であんな事口にしたんだ!?)

 そうだよ。いくら三鷹の代弁をしたと俺が言っても、藤島くんには俺が直接言ったようにしか見えない。いや、て言うか姿は三鷹なんだけどね。中身が違うからね。ややこしいけど。でも俺が何を言ったって、実際は二人きりの空間であの台詞。もう告白しているようにか感じないよな藤島くんからしたら。
 俺は慌てて弁解する選択をした。突然の奇声に驚いている藤島くんに向ってビシッと指を向け、動揺からか高々に言い放った。

「い、いいか!?今のは違うからな!あの、アレだ!本当なんだけど嘘みたいな感じだから!」
<結局どっちなのそれ!?もうちょっとマシな言い訳してよ!>
「よ、よしゃあ!じゃあ歯食いしばれ!全部忘れさせてやる!」
<お前は野蛮人か何かなの!?何で暴力志向な訳!?>
「いや、だだ、だからその…ッ」
「ぶはっ!」

 突然聞こえた吹きだした笑い声に、俺も三鷹もえ…?と間抜けな声を出した。よく見ると、藤島くんの肩が小刻みに揺れている。と言うか、顔を上げた彼はもう涙目になって笑っていた。

「アハハ!なにその慌てよう!おもしれー!」

 腹を抱えて笑い続ける藤島くんに、俺の顔にも血が集まるのを感じる。確かに慌てすぎた。どうにかしないとと言う思いが強すぎてつい突っ走った自覚はある。

「フハッ、アハハハ…!」
「笑いすぎだろお前っ」
「だ、だって三鷹くんも顔真っ赤だよ?」
「うっ、うっせぇ!笑うな!」

 ぐぬぬぬっ、あーヤバい。もう色々羞恥で死ねる気がする。いや、もう死んでるけどさ。

「本当に、面白い」
「は?」
「そんでもって、楽しい」

 立ち上がって俺を見つめる藤島くんの表情は、何故だか凄く優しい。その表情に思わずグッと息を呑む。そんな俺に近寄った藤島くんは、スッと俺の頬に手を当てた。さっきまで気まずそうに触っていいか聞いてたお前は何処行った。

「……岩槻とあんま話さないでよ」
「は?何?」
「俺だけを見てない三鷹くん見るの、凄く嫌だから――」

 約束ね。
 そう言って目を細めて笑う藤島くんの表情を、俺はどんな顔で見つめていたのか、それを知るのは目の前の藤島くんと、中で俺の心情を汲み取った三鷹だけだった。





 香坂が怒る。
 それを悠生様が優しい顔で見つめる。
 とても愛しそうに。
 僕の姿の香坂を見つめてる。
 ねえ香坂、気付いてる?
 今お前がどんな思いでいるのか。
 覗かなくたって分かるよ。
 この胸の高鳴りは、僕にまで届いてるから。
 それは以前抱いていた同情とも、最近抱きはじめた友情とも違う。
 この感情は間違いなく微かな――。

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