親衛隊隊長を代行します | ナノ
12

(つまりは何?このゴタゴタを機に、藤島くん達生徒会に痛い目見てもらおう的な?そう言う事?)
<…たぶん。だから岩槻様はさっき仕事が増えるって言ったんだと思う。もう既に、色んな所で風紀が出ないといけないような事が起きてるって事>

 成る程ねぇ、と少し呆れ気味に相槌を打った俺は、徐に席を立ち、顔を俯かせる藤島くんの前に立った。そんな俺の様子に気付いたのか、三鷹が少し怪訝そうに俺の名前を呼ぶ。

「ばっかじゃねーの」

 俺は思ったことをそのまま口にした。藤島くんは、え?と目を見開いて俺を見ている。

<なっ、香坂!悠生様になんてことを…!>
「全部自分が蒔いた種じゃん。一丁前に落ち込むな、もっと他にやることあんだろ」
「やること…?」

 何故仕事を放棄したのかは知らない。でも、皆の不信感をつのらせたのは他でもない。その時の自分たちの選択だ。だから今何もしていないお前に悔やむ資格はない、けど。

「悔やむ暇あんなら、その時の分まで死に物狂いで仕事しろ」
<香坂…>
「一度失った信用は、これからのお前に懸かってんだ」

 呆然と俺を見る藤島くんの胸をドンと拳でつく。少し衝撃が強すぎたか、藤島くんが一歩後ろに下がった。でもこれは俺なりの鼓舞のつもり。

「まだ間に合うだろ。岩槻に言われっぱなしで終わらせんなよ」
「三鷹くん…」
「あー何?それとも自分が見てない間に、また俺に制裁の手が行くんじゃないかとか思ってる?」

 何処か俺を案じる様な目で思った。図星だったのか、藤島くんは少し視線を逸らした。思わず呆れた溜息が出てしまう。

「それこそ余計なお世話だ」
<香坂!?>
「俺はお前に護られていないといけない程、弱くねぇよ」
「でも…」
「それにお前が色々手を回してくれたんだ。ホントにまた制裁に遭うかも分かんねぇし」

 だから、そんな心配すんな。そう言って笑うと、藤島くんは難しい顔つきを徐々に和らげていく。そして頬を掻きながら苦笑した。

「……ホント、敵わないなぁ」
<悠生様…>
「え、何?」
「んー?こっちの話」
「ふーん?」

 三鷹は聞こえたようだけど、俺は聞き逃してしまった。まあいいか。そう思っていると藤島くんが、あのさぁと少し歯切れが悪そうに聞いてきた。

「何?」
「その、手…」
「手?」
「でも、頭でも、何処でもいいから…」

 なんだ一体。要領を得ないぞ。

「触りたい」
「……は?」
<……え?>
「三鷹くんに、触りたい」

 それまで泳がせていた視線を、今度は真っ直ぐ俺に向けて来た藤島くん。だがきっぱり言い切った言葉に、俺は思わず目が点になった。触りたいってなんだ触りたいって。
 しかし中の三鷹が煩い。キャーキャー言ってる。マジ黙れ。

「どう言う意味だ…」
「え、ちょっと待って何で構えてんのっ」
「返答次第では直ぐにぶっ飛ばせるように」
<ちょっと香坂!?>

 三鷹の貧弱な身体で何処まで吹っ飛ばせるかは微妙だけど。明らかに警戒する俺に藤島くんは慌てて弁解しだした。

「別に変な意味じゃないからね!?」
「じゃあ他にどんな意味があんだよ!」

 つかこんな大勢の前でお前と手なんか繋げるか!
 ただでさえ、岩槻が俺に絡んで来たから皆チラチラと此方を窺ってるんだ。此処で手なんか繋いでみろ。今よりもっと注目の的になって面倒くさくなる。俺がはっきりそう言うと藤島くんはグッと押し黙り、かと思えば俺の腕を掴みそのまま歩き出そうとする。
 慌てて腕を外そうとするが、力の勝負になれば今の俺に軍配は上がらない。ただ引き摺られるだけだ。

「おい!ちょっ、まだ食器片付けてねぇよ!」
「そんなの給仕に任せればいい」
「はあ!?ふざけんな!どこのお坊ちゃまだよ!」
<此処の殆どの生徒は金持ちのお坊ちゃまだと思うけど?>

 あ、そうだった。言われてから気付く事実。くそ、金持ちどもめ。





「んで、こんな所まで来てどーすんだよ」

 藤島くんに引き摺られてやって来たのは、何と生徒会室の前。しかもこのフロアは用がある人以外入ってはいけないようで、今この場には俺と藤島くんしかいない。

「つか、もう触ってるし」
「あ」

 俺の言葉に、藤島くんが慌てて俺の腕から手を離す。そして少し不貞腐れたように、だってと言葉を漏らす。あ?と俺が怪訝そうな顔をすると、藤島くんはプイッと顔を横に向けた。何だコイツ腹立つ。

「人に見られるのが嫌だったんでしょ?」
「は?」
「だから…俺に触られてる姿、人に見られたくなかったんでしょ」

 触られてるって言い方が凄く嫌だけど、まあ見られんのは嫌だな。これ以上噂になりたくないし。

「見られて困る人でも、いるわけ?」
「あ?困る人?」

 不貞腐れながら、藤島くんが横目で俺を見る。なんだそのジト目、つか質問の意味が分からない。首を傾げる俺に、三鷹が呆れたように溜息を吐くのが聞こえた。

<……悠生様との仲を疑われては困る人でも居るのかって意味じゃない?>
(いや、だからどういう意味?)
<だから恋人…もしくは好きな人でもいるのかって事!>
(はああ!?)

 なんだそれ!どう考えたらそう言う考えに行きつくんだ!?

(え、つか、居るの三鷹)
<居る訳ないでしょ!僕は悠生様一筋なの!>

 そりゃそうだ。愚問だった。

「だそうだ藤島くん」
「え?」

 俺はそのままの調子で藤島くんに声を掛けた。当然藤島くんは訳が分からず目を丸くする。俺はそんな藤島くんは真っ直ぐ見据え、笑いながら言ってやった。

「お前一筋だから、見られて困る人なんかいない」
「――!」
「お前しか見てないよ」

 ずっと、三鷹はお前だけを想ってきたんだから。
 俺は三鷹の思いをそのまま口にした。だが、言い終わってすっきりする俺とは反対に、何故か三鷹が中で叫び声をあげた。

(何だようっせぇな!叫ぶな!)
<馬鹿なの!?お前馬鹿なの!?>
(何だとコラ!)
<ぼ、僕の姿でなんて恥ずかしい事を口にするのさ!>
(はあ?)
<悠生様違うんですッ、い、今のはなかったことに……>

 声も届かないのに、三鷹が藤島くんに必死に弁解しようとしている。何なんだよ一体。そう思っていると、三鷹の声が突然止まった。え、どうした。中の三鷹に声を掛けても、反応がない。と言うより、固まっている。
 何がどうしたんだと、俺はフッと藤島くんに視線を戻した。戻して、俺も固まった。


 何で、そんな真っ赤な顔してんの?藤島くん。


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