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「ふはは!あの生徒会会計がそこまでするなんてなぁ、よくそこまで手懐けたな!」
「は?」
すると突然、岩槻が大笑いし始めた。何事かとそちらを見ると必死に笑いを抑えようとする彼と目が合った。その目は涙目だ。駄目だコイツ、一度笑いのツボに入ると抜け出せなくて苦労するタイプだ。
「知らないのか?お前が受けていた他の親衛隊からの制裁を、コイツが直々に止めるよう各親衛隊長の元へ足を運んだって言う話をさ」
「は?」
<悠生様が…っ>
「ッ、おい!」
俺さっきから、は?しか言ってない気がするけど、それ程までに今の話は直ぐに頭に入ってこなかった。無意識のうちに、俺は藤島くんの方へと顔を向ける。すると、何処か気まずそうでもあり、恥ずかしそうでもある藤島くんの複雑な表情が見えた。
それを見て漸く様々な事象が頭の中で繋がり出した。
「藤島くん、気付いてたの?俺が制裁受けてたの」
と言っても、受けていたのは一日だけだけど。
でも今の話だと、それもこれも、全部藤島くんが解決してくれたって事だよな?
「初めて俺がランチ会行った日さぁ…」
「え?」
「あの時、三鷹くんスリッパだったでしょ?」
確かに上履き汚されたからその日だけスリッパ借りたけど、もしかしてそれだけで気付いたのか?それ凄くね。
「喜多村先輩に目ェつけられたのは分かってたし、絶対何かあるだろうと思ってさ…案の定、三鷹くんと同じクラスの親衛隊の子に聞いたら、教科書とか大分ボロボロにされたって聞いたから…」
「え、じゃあ、もしかしてあの新しい教科書とかノートって…」
「うん。俺が用意した物」
そうだったのか。制裁が突然無くなったのも、物を揃えてくれたのも、全部藤島くんのお蔭だったんだ。でも、だったら何で早く言ってくれなかったんだ。それじゃあお礼も言えやしない。
そう言うと、藤島くんは少し表情を暗くして顔を俯かせた。その理由が分からず首を傾げる俺の中で、三鷹がそう簡単な事じゃない!と声を上げた。
<確かに僕らへの制裁は収まったけど、役員である悠生様が出たことでよく思わない連中は絶対に出てくる>
(よく思わないって…?)
<役員の力は絶対的。だから逆らうことは出来ない。けど、邪魔者はどうにかしたい。でも、手を出すことは出来ない。悠生様がそう言ったから>
それでハイ終わり!にはならないのが、この学校の特殊な状況らしい。
<それじゃあ、そんな彼らの負の感情は何処へ行くと思う?>
(何処って…そりゃあ)
そう聞かれて言葉に詰まる。
行き場は、ない。
<たぶん、親衛隊は今荒れてる。そしてそう言う時ほど――>
「お前らがもう少しちゃんと仕事をしてりゃ、俺の仕事が増える事はなかったんだがなぁ」
「……」
「まあ、今更だけどな。それじゃあ三鷹。また今度」
「え、あ、ああ」
そうこうしているうちに岩槻が席を立ち、そのまま行ってしまった。何だったんだ一体。それに、もう少し仕事をしていればって、一体どういう事だ?
俺の疑問に、三鷹が少し声のトーンを落として教えてくれた。
<――悠生様たち役員は、一時期メンバー全員仕事を放棄なさった>
(え?)
<だから、役員に対して不信感を持つ者もいるってこと>
三鷹の言葉に驚き、思わず藤島くんを見ると、彼は岩槻の言葉を受け止めているのか、少し悔しげに唇を噛んでいた。
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bkm