親衛隊隊長を代行します | ナノ
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「えっと、これはー……」

 口籠る俺に、藤島くんは更に眉を顰め睨んでくる。
 別に佐伯に殴られたことを隠すつもりはないのだが、それを藤島くんに言うのは躊躇われた。だって、なあ。好きな子が理不尽な暴力を振るうだなんて知ったら、何か嫌だろ。つか悪く言われる事自体嫌な筈だ。
 案の定、俺の考えを察した三鷹はばっかじゃないの!と声を上げた。

<そんなの気にしないで言えばいいのにッ>
(んーでもなぁ)
<だ、大体悠生様がアイツを好きだなんて確証何処にもないんだから!>

 まあ、本当にその通りなんだが…。うーんと困った顔の俺を見て何を思ったのか、藤島くんが急に顔を悲しげに歪めた。え、何、どうした。

「…んで」
「え?」
「何で、教えてくれないの?」
「何でと言われても…」
「つか言っちゃえばいいのに」

 何でそんな顔しているのか分からずに困惑する俺の横に、岩槻が並んできた。ああ、そう言えばいたんだったと思う俺とは反対に、藤島くんは岩槻を睨み付けている。
 すっげぇ嫌そうな顔。嫌いなのか?と言う俺の疑問に、三鷹が生徒会と風紀委員は敵対関係にある事を教えてくれた。つか、同じ学校で敵同士も何もないだろうに。変なの。

「さっきから目障りだとは思ってたけど…何でいんの」
「別に俺が何処に居ようと生徒会には関係ないと思うけど?」
「ちげぇよ。何で三鷹くんの隣に居るのかって聞いてんだよ」

 何だかいつもの間延びした話し方でないから何だかちょっと違和感がある。つか、迫力がある。イケメンは何しても迫力があってズルい。

「それこそお前には関係ないな。俺はちょっと用があるだけだ」
「……ならさっさと言って、早く消えろよ」
「お前が居るから言わない」

 岩槻の言葉に、藤島くんがどんどん不機嫌になっていくのが俺にも分かった。何でこいつはこんな煽る様なことばっかり言うんだ。三鷹も酷く不安そうにオロオロしている。

<は、早く岩槻様をどうにかしないと…!>
(だな)

 とにかく俺に用事があると言う岩槻に用件を聞こう。そうすれば事は解決するはずだ。
 そう思い、俺は険悪ムードな二人の間を割って入り、岩槻に向かい合った。岩槻は突然入って来た俺を驚いたように見ている。

「俺に用事なんだろ?この場で聞かれたくない内容なのか?」
「いや、つか聞かれて困るのはたぶんお前かな?」
「は?」

 どう言う意味だ?と首を傾げる俺に、何故か微笑みかけて来た岩槻が、先程の藤島くん同様俺の頬の腫れを撫でた。少しの痛みが走り、思わず顔を顰める。

「なにして…」
「さっき学校の廊下でお前、あの転――」
「ッ、わあああああ!!」

 何か嫌な予感がしたから思ったより早く動けた。お蔭で肝心なワードが出る前に岩槻の口を塞ぐことに成功した。て言うか何こいつ!俺が折角黙ってたことを今ここで言うつもりだったのか!?つか何で知ってんの!?
 そこでハッと先程の言葉を思い出す。成る程、聞かれて困るのはお前とか言ってたのはこの事か。こいつ…と口を塞ぐ手を退かして岩槻を睨むと、岩槻は何故か楽しそうに笑っていた。笑い事じゃねぇよバカ。
 
「まあ、それを聞きたかったんだ。また今度詳しく聞かせてくれ」
「いや…別に詳しくも何も俺にも何が何だかさっぱり…ッぐえ」
「ねえー何の話ー」

 岩槻と話していると突然襟元を引っ張られ、後ろに立っていた人物に引き寄せられた。と言うか俺に後ろに立っているのは一人しかいないからその人なんだけど、いきなり引っ張ったせいで変な声が出た。

「っ、いきなり何す…って、ちけぇよ馬鹿!」
「ぐふっ」
<ちょっと!!悠生様に何すんの!>
「あ、悪い」

 抗議の声を上げようと後ろを振り返ったら、かなり間近にその端正な顔があったから思わず腹に肘を入れてしまった。
 藤島くんに友達宣言してからこう言うスキンシップみたいなの?大分減ったから、何だか過剰に反応してしまった。今のは俺が悪いわ。すっかり俯いて、痛さからか身体を震わせる藤島くんの背を撫でながら俺は様子を窺う。

「ホントごめん。大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない」
「マジかっ。なら、保健室に……」
「どうしてこんな傷作って来たのか教えてくれたら、治る、かも」

 顔を上げた藤島くんは、少しむくれながらそう言った。俺はその言葉に目を丸くさせた。まだこの傷を気にしていたのか。て言うか痛そうなのはフリかよ。マジ焦ったわ。


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