親衛隊隊長を代行します | ナノ
9

(にしても、マジであいつ何だったのかねぇ)
<分からない…もう頭おかしいよあの転校生ッ>
(まあそれに関しては同意だわ)

 未だにズキズキと痛む頬を擦りながら、俺は夕食を食べに食堂へ向かっていた。その道中、三鷹と先程学校であった佐伯に突然殴り掛かられた事件について話し合っていた。まあ結局は意味不明としか言えないんだけどな。

(つか一番驚いたのは、あのマリモ本当に藤島くんの事が好きなんだな)
<……まさか、そんな…>
(でもあの反応だぜ?気のあるやつじゃなきゃあそこまで赤くなって動揺したりしねぇだろ)

 もしかしたら図星をつかれたから殴ってきたとか?あの馬鹿ならありえそう。

(ん?でもさ、あいつも藤島くんが好きだったらあの二人両想いじゃん)
<――!>
(三鷹?)
<っ、そんなハズない!だって悠生様は分かんないって言ってた!!>
(うおっ、何も大声出すことねぇだろ)

 俺の発言に三鷹がいやに食って掛かってきた。冗談だろそこは軽く流せよと思ったものの、藤島くんを好きな三鷹にそれは無理だったと言ってから気付いた。

(ごめん、三鷹。無神経すぎた…)
<…いや、僕も少し熱くなり過ぎてた>

 慌てて謝罪を述べるも、三鷹の声に覇気はなかった。あーもう、俺何やってんだろ。
 すっかり黙り込んでしまった三鷹に掛ける言葉も見つからず、俺達は無言で食堂へと向かった。





「よう、噂の会計親衛隊隊長さん」
「……」

 誰だ?とは聞けず、俺はいきなりのことでただ口を開けて固まった。ポロリと、口に入れようとしていたご飯が茶碗の中に落ちる。え、誰このイケメン。つかマジでこの学校イケメン率高くね?
 などと思う俺を余所に、俺が話しかけても終始無言だった三鷹が慄くのを感じた。なんだなんだ、どうした。

<岩槻様ッ>
(いわつき?誰だそれ)
<……この学校は二大勢力で成り立っているの。一つは、悠生様が所属する学園全体を纏める生徒会。そしてもう一つ……学園の規律を乱さないよう、学園全体の風紀を取り締る風起委員会>
(ほ、ほほぅ)

 本当に色々ツッコミどころのある学校ではあるが、今は黙って三鷹の言葉を聞くことにしよう。

<岩槻様は、その風紀委員のトップ。つまり風紀委員長だよ>
(へえ。そーなんだ)
<な、何を暢気にッ>

 何故そんな焦っているのか理解できず、俺は内心首を傾げる。そんな俺達のやり取りなど知らない岩槻サマは、突然俺の横にドカッと座ってきた。え、何この人。つか密着しすぎじゃね?

「お前色々噂になってんぜ?性格が折り曲がったとか、周りが心配になるほど激変したらしいな」
「誰が折り曲がってるって?」
<っ、僕らが何をしたのか詳しく聞いて!!>
(え?)
<いいから早く!>

 いつもなら喧嘩腰やめろと煩い三鷹が、今何も言ってこないのは、それほどまでにこの状況が宜しくないからだ。俺は気持ちを切り替えるべく、なるべく冷静に隣に座る男に話しかけた。

「あのー岩槻サマ?俺に何か?」
<僕に何か御用ですか!?>
「……ボクニナニカゴヨウデスカ」

 どんだけ棒だよ!と中で三鷹が突っ込むが、言い慣れない言葉遣いだから仕方ねぇだろ。だが風紀委員長様はとても変な感覚をお持ちなのか、俺の片言の言葉を聞いてブッ!と噴き出した。
 もうやだこの人。何がしたいのか分からなくて怖い。

「ふははは!オマエなんだよ!何で言い直したんだよ!」

 言い直す様に三鷹に言われたからだよ!とは言えず、成り行きですと小さく答えると、更に大きな声を上げて笑い出す。
 でもこの反応。少し此処の生徒達と違う気がする。そう、何と言うかノリ的に俺と近いものを感じる。

「はー…やばい。オマエ面白いわ」
「そりゃどーも」
「はは!怒ってやんの!」
「怒ってねぇよ!」

 前言撤回。やっぱ訳わかんないし笑うしムカつく。人を指差す勢いで笑うとは本当に失礼な奴だな。

「三鷹とは初めて話したけど、これが素なの?今まではちょっと高慢なイメージが共通認識だった気ぃするけど」
「いやいや。今でも十分高慢ちきですから」
<何だと!>
「自分で言うかそれ!」

 中で怒る三鷹はさておき、この人は相当笑いのツボが浅いらしい。さっきから笑いっぱなしだ。

「……と言うか、いい加減用件を言って欲しいんですが?」
「何で敬語だよ?同じ学年だろ俺ら!」
「分かったよ!分かったからもう笑うな!」

 駄目だこいつ。一々笑って先に話が進まない。そう思って俺は腹を抱えて笑う岩槻の肩を掴もうとしたのだが、その前に第三者の手によって顔を反対方向へと向けられた。グギッと百八十度に。
 痛ぇ!とか叫ぶ余裕もなく、俺は視界いっぱいに広がる綺麗な顔をただ黙ってみるしかなかった。凄く顔が近いんですけどぉ、とか言える雰囲気ではないと言うのは、流石の俺にも分かった。それ程までに俺の顔を掴んでいる藤島悠生の雰囲気が只事ではないのだ。
 な、何でそんな怖い顔をしていらっしゃるの?

「この傷……誰にやられたの?」

 ジッと俺の顔を見ていた藤島くんが漸く言葉を発した。
 同時に、ピリッと頬に痛みが走ったのは彼が頬を指で摩ったから。この傷って、もしかして佐伯に殴られた傷の事か?

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