親衛隊隊長を代行します | ナノ
7

 晴れて藤島悠生とお友達と言う位置につけた俺は、翌日自分の下駄箱……基三鷹の下駄箱を開けて固まった。

(あー、成る程ねぇ。マジなわけか)
<ッ、最悪…>

 三鷹が心底悔しそうにしている。まあ、こんだけ自分の下駄箱がゴミで荒らされてたら誰だってそう言いたくなるよな。つかただのゴミじゃなくて生ゴミか?うえ、くせっ。
 下駄箱を見ながら顔を顰めていると、周りでクスクス笑っている集団がいた。そしていい気味とか呟いている時点でもうこれを誰がやったのかなんて明白だ。

<あの子たち…やっぱり会長と書記の隊の子たちだ…>
(へえ。マジで制裁の対象にされてんだな俺)
<呑気な事言ってる場合!?まだこれだけで済んでるからいいけど、もしもっと酷い制裁に遭わされたら…って聞いてるの!?>

 三鷹の話を余所に、俺は三鷹の携帯でメールをチェックする。そしてその中に、この前のように三鷹を責める内容の物は一つもなかった。嬉しさから思わず笑みを零すと、三鷹が中で、何笑ってんの!?と声を上げた。

(良かったな。三鷹)
<だから何が!?>
(お前の隊の子達は、今度こそお前を信じてくれてるよ)
<――!>
(やっぱお前、隊長としては慕われてんだな)
<別に……これも悠生様のお蔭、だし>

 自信家に見えて、三鷹は妙な所で謙虚と言うか控えめだ。勿論アイツの影響は大きいが、自分にリーダーシップがなきゃ誰も聞く耳さえもってくんないだろ。そう思いながら、俺は小さく笑った。
 実は昨日、制裁を無くすと宣言した俺は隊にその旨を伝えた。勿論、異論があるならそれを聞く気でいたし、納得してくれるまで話し合えばいいと思っていた。しかし俺の考えとは裏腹に、隊の子殆どは納得してくれた。中にはじゃあどうするのかと至極当然の事を聞く子も居たし、この先この隊に居て何のメリットがあるのか訊ねてくるものもいた。
 そこで俺は考えた。考えたと同時に行動に起こす。三鷹の携帯から目的の番号を探し、相手が出るまでコール音をジッと聞いていた。

《もしもし?》
「あー、えっと。三鷹だけど、さっきはどーも」
《どしたの?さっき別れたばっかなのに》
「ちょっとお願いしたいことがあるんだ。今時間ある?」

 そう、相手は藤島悠生。元々番号は知っていたみたいなので、すぐに連絡がついた。俺の目的が分からないのだろう、三鷹が焦ったように俺の名前を呼んだ。しかし俺は大丈夫と心の中で呟くだけ。悪いようにはしない、絶対。
 そして俺は、藤島悠生に俺の考えを伝えた。友人になったばっかで頼みづらいけど、そうは言ってらんない。そして、長い事二人で話し合った結果――。


「お邪魔しまーす」
<ギャアアア!悠生さまぁぁ!>


 ギャアアアア!と窓ガラスが割れんばかりに叫んだ隊員の子達は、目の前の藤島悠生を見て今にも倒れそうになっていた。つか俺の中でも若干一名騒いでるけどな。俺は俺で耳が痛いよ。グワングワンと少し眩暈を覚えながら、興奮気味の隊員たちを見て俺は少し嬉しくなった。
 そう、俺が藤島悠生に持ち掛けたこと。それは週一回ある会計のランチ会に顔を出してほしいと言うことだった。俺も三鷹に「今日はランチ会だから三階に行って!」とか言われるまでそんなものがあるとは知らなかった。藤島悠生も然りで、ランチ会?と不思議そうにしていた。ただお昼を隊の皆で食べて話す、ただそれだけのことだ。難しいことじゃない。別に一緒に食べろとは言わないから顔を少し出してくれとお願いした俺に、藤島悠生は暫し沈黙の後、分かったと了承してくれた。絶対嫌がられると思っていた俺としてはかなり意外だった。こんなあっさり受け入れてくれるなんて。素直にそう伝えると、電話越しに藤島悠生が笑う。そして、友達の頼みでしょ?なら聞かないと、そう言ってくれた。まさか藤島悠生からそんな事を言ってくると思わなかった俺は、動揺しておおぅと変な返事をしてしまった。
 でも、まさか本当に来てくれるとは。すぐには来てくれないと思っていたから余計に驚いた。しかもその手には弁当。なに、もしかして此処で食べてってくれるのか?その期待通り、藤島悠生が教室内に入って来た。おー、すげぇ。いつからこんなファンサービス旺盛になったんだ?そう思ったのも束の間、藤島悠生が座って来たのは何と俺の隣。態々誕生日席っぽく黒板の前の席を空けといてやったのに態々「ごめん。譲ってー」と俺の隣の子を退かしてまで中途半端な席に座って来た。まあ、出てくれないより百倍マシか。

「サンキュー藤島くん。でもまさか一緒に食べてくれるとは思わなかった」
「別にー。ま、こう言う場でもない限り、俺が親衛隊を知る機会ってのもないからねぇ」
「……」
「あはっ。凄い意外そうな顔してんね。でも三鷹くんが言ったんだよ?親衛隊を理解する気があるならってさ」

 ああ、まあ確かにそれっぽいこと言ったわ。でもむざむざ俺の言う事を聞くとは思ってなかったんだ。

「今まで親衛隊の子達にはそれなりに酷い扱いをしちゃったけど、それも少しずつ謝っていけたらなって思って」

 皆に向ってそう言った藤島くんに、隊の子達はポカンと間抜け面だ。まあ俺も驚きだよ。まさかついこの前まで親衛隊を解散させようとしていた本人から、そんな言葉が聞けるなんて。思わず顔を凝視する俺を横目で見た藤島くんは、そのままフッと笑って少し照れたように頬を掻いた。

「三鷹くんなら…そうする気がしたんだよねぇ。自分に出来る事をちゃんと理解してさー。今俺に出来る事って言ったらこのくらいしか無さそうだし」
<悠生様…そんな事を考えて下さったのですか?僕らの親衛隊の為に…っ>

 三鷹が感動のあまりか、中でおよよと泣き始めた。その泣き声が面白くて笑いそうになるのを必死に堪えながら、俺は藤島くんに笑顔で一つ頷き返すと、皆を促した。さあ、早くしないとお昼が終わっちゃう。俺の掛け声に皆で頂きますをし、各々雑談をする。勿論今回のランチ会の目玉である藤島くんの傍には、おかずを献上しようとする隊の子達で溢れ返った。俺の隣にも、他の隊の子が来て俺とお話したりと、意外にランチ会は盛り上がった。チラリと見た藤島くんも、最初こそ気圧され気味と言うか困惑気味だったけど、最後の方には笑顔を見せる事も多くなっていた。いやー、取り敢えず良かったかな。今回のランチ会は無事成功と言うことで。あー何か今日はどっと疲れたなぁ。制裁とやらには遭うしで散々だったけど、この時間だけは幸せと思えたよ。
 だから、それを嬉しく思って浮かれていた俺は気付かなかった。藤島くんの視線が、時々俺の足元に向けられていたことに。

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