親衛隊隊長を代行します | ナノ
5

「なあ、誰だと思う…?同室のヤツならチャイム鳴らさないよな」
<たぶん違う。同室の子はこの時間には殆ど戻らないし…出ない方がいいよ。早く部屋戻って>
「でもお前に用事かもよ?」
<僕に…?>

 何故か怪訝そうな声の三鷹に、俺は今更ながら気がついた。俺は三鷹の身体に入ってそれなりに経つが、教室にいても三鷹が誰かから話しかけられることは滅多にない。話しかけられても、クラスの用事とかそういう時にしかクラスメイトと話さないし、昼も一人だ。つまりは、なんだ。

「悪い…お前、友達一人もいなかったな」
<ううう、うるさい!何急に優しくなってんの!気持ち悪いからやめてよね!>
「なんだとコラ」

 ぼっちと言う悲しい事実を突き付けた詫びに優しくしてやろうと思ったのに、ほんとこいつ可愛くない。いや、男にその表現はおかしいか。なんか少し毒されたかなこの学校に。

<それに僕友達いないわけじゃないから!木村だっているし!>
「あーあの何かと連絡してくれる隊員の子ね。って、それは友達と言うよりかは…」
<な、なにさ…>
「いや、何でもねぇ」

 俺の思う友達とは違うが、三鷹がそう思っているならそれでいいかと、少し慈愛に満ちた表情を浮かべる。それは三鷹にも伝わったらしく、馬鹿にされたと思っているのか、中でキーキー怒り出した。

「あ、そうだチャイム」

 三鷹と話していて忘れていたが、実は未だに鳴り続けているチャイム。このままにしても埒があかないだろうし、とりあえず返事してみるか。俺は三鷹の制止を振り切る形で玄関に向かった。

「はいはーい。どちらさんですかー」
<ちょっと香坂!?>
(大丈夫だって。覗き穴からちゃんと見るから)

 ピンポンと、俺の声に反応して鳴り続けていたチャイムが止まった。なんだよ一体。そう思い覗き穴からソッと外の様子を窺う。居なかったらどうしようと言う予想に反し、扉の前にその人物は立っていた。立っているが、正直出たくない。

「三鷹くん、オレオレ。あーけて」
「オレオレ詐欺はお断りしてますので。じゃ」
「酷いなぁもう。俺だよ、愛しのゆーせー君だよ」
「誰が愛しのだ」

 思わず扉越しに大きくため息を吐いてしまう。正直言うと、三鷹の言う制裁とやらが早速始まるのかと少し覚悟してはいたが、此処に来てまさかの藤島悠生。少し拍子抜けだ。だがそんな俺とは裏腹に、三鷹が興奮し始めた。あー、やっぱそうなるよね。

<なにボサッとしてんの香坂!早く開けてよね!>
(お前、つい一分前まで開けるなってうるさかったよな?)
<いつの話してんの!いいから早く!悠生様をお待たせしないで!>

 だからつい一分前だよ!とは言えず、俺は渋々鍵を開けることにした。中でこれ以上騒がれても煩いし。でも腹立つからゆっくり開けよ。そう思って一分ぐらいかけて漸く扉を開いてやった。

「やっほー。って、なんか怒ってるー?」
「別に怒ってねぇよ要件は何だ早く言え」
<ちょっと!悠生様にその喧嘩腰やめてよ!>

 イライラを抑えきれずノンブレスで要件を急かした。早く言って早く帰れの意を込めて。もちろんそれに三鷹は怒るが、藤島悠生はニコニコした表情を崩さず、あのねぇと話し出した。
 なんかこいつ心広くね?俺ならぜってーイラッとくるけどなこんな話し方されたら。

「三鷹くんさぁ、喜多村先輩に目ェつけられたんだってー?」
「……お耳が早いことで」
「しかもその原因が、リョータへの制裁を無くせって言う発言かららしいじゃん」

 ホント、よく知ってんなこいつ。でもそれだけを言う為に此処に来るはずがない。と言うより、ずっと分からなかった。こいつが俺の周りをチョロチョロする理由が。けど、笑顔でも隠し切れないその懐疑に満ちた目で俺は悟った。
 成程ね。こいつ、俺を試してんのか。答えが分かり少し安心した。正直こいつに疑われようが俺は気にしないんだけど、三鷹の将来のためにも此処は誤解を解いておかないといけないな。

「そんな俺を試すような真似しなくても、何もしねぇよ」
「…へえ」

 値踏みするかのような視線に若干苛立ちはするが、三鷹のためだ。抑えろ稜太。

「とにかくお前の親衛隊では佐伯に手は出さない。それだけだ。別にあの人たちに強要はしてない。目をつけられる理由はなかったはずなんだけどな」
「どうして突然?今まで俺や会長たちが何を言っても聞かなかったのに」
<……っ>

 三鷹がグッと息を呑んだ。好きだから、それはきっと理由にはならない。人を傷つけていい理由にはならないからな。今までの三鷹の行いはなかったことには出来ないし、俺もそれについては触れないことにしてる。三鷹には、自分で気づいてもらいたいと思ったから。自らの過ちを。そのきっかけにでもなればと、俺は今回の提案をしたのだが、やはり今までが今までだっただけにそう簡単には信じてもらえないらしい。
 どうしたものかと頭を掻いた俺を、笑顔を消した藤島悠生がジッと見据えてくる。

「今の三鷹くんは、すごく面白い。だから一緒にいて楽しいよー」

 けど…と呟いた声は、恐ろしく冷たかった。

「それが全部演技で、制裁なくすのとかが俺に恩を売るためとか考えてるなら、ほんと恐ろしいヤツだよね、三鷹くん」
<悠生様…っ>
「ねえ、どうなの?」

 薄ら浮かべる笑みでさえ、貼り付けたようで気味悪い。こいつ完全に俺を疑ってる。
 つか演技というならお前だって今までの全部演技ってことだろ。そっちのが凄くね?俺今の今まで気づかなかったし。けど、やっぱり一つ誤解してる。あー、一つ所じゃねーけど、今俺が言いたいのは一つだけだ。

「あのさ。俺は正直お前にどう思われようが構わねぇ。だからその考え虫唾が走るほど気持ち悪ぃからやめて」
<香坂、お前何を…!>
「それと俺はお前のことどーでもいいし、佐伯とかもどーでもいい」

 その言葉に、藤島悠生が少し驚いたように目を見開く。
 だから、と言葉を続けた俺は、嘲笑を浮かべ言ってやった。

「自惚れんなバーカ。俺はこいつの味方なだけだから」

 そう言って、ドンッと胸を叩いた。


prev next


bkm

top