親衛隊隊長を代行します | ナノ
2

「ほら、アーンしてよ三鷹くん」

 そうこう考えている内にアイスが来たらしい。俺にスプーンを向けてくるが、これは何の真似だ?いや、わかってる。けど嫌だ。もの凄く。
 だが嫌がる俺を余所に、態々俺の隣に座ってまで食べさせようとするこいつの根性は中々のものだ。此処まで嫌な顔されたら俺ならやめるね。

<香坂!>
(分かったよ…)

 頭の中で急かす三鷹の声に、俺は渋々了承した。
 アーンと口を開けると、藤島悠生が嬉しそうに俺の口にアイスを入れて来た。
 ジワッと口内に甘さが広まる。うえ、甘。

「ふふふー」
「んだよ、気持ち悪ぃ」
「酷いなぁ三鷹くん」

 酷いとか言いつつ笑うこいつは本当に変態じゃないかと思う。俺が呆れた様な視線を送っていると、突然大きな声で「悠生!」と声が掛かった。
 あーもう最悪。またこいつかよ。俺と同じ思いなのか、中で三鷹がプリプリ怒っているのが感じられた。そりゃ取り巻き連れてこっちに来られたら嫌だよな。

「悠生!こんな所で何してるんだよ!」
「あ、リョータ。やっほ。今ね、三鷹くんとアイスと食べてんのぉ」

 ネ?と再び俺に問い掛けてきたが、俺はそれに答えず、口内の甘さを和らげようと水を飲む。そんな俺に無視しないでよーと泣き真似しながら俺に引っ付いてくる藤島悠生を無言で押し返す。それを見て佐伯がギリッと歯を食いしばった。

「何でだよ悠生!あんなに親衛隊を嫌ってたのに!!」
「うん、親衛隊は今でもあんま好きじゃない。けど三鷹くんは、結構面白いと思うよー?」

 何だ面白いって。俺はちっとも楽しくねぇよ。しかし佐伯は藤島悠生の答えに納得がいっていないのか、更に詰め寄って来た。

「でも親衛隊なんて身体だけの関係虚しいだけだろ!?」
「おいコラ。誰がいつこんなヤツと身体の関係をもったって?」

 我関せずでいようと思ったが、聞き捨てならない言葉に思わず口を挟んでしまった。突然突っかかって来た俺に佐伯が一瞬目を見開いた、気がした。ボサボサの髪から覗いた目しか見えないからたぶんとしか言えないが。

「えーもったじゃん。俺、親衛隊の中じゃ三鷹くんとが一番多いと思うけどー?気持ちーしね」
「ううううっせぇ!!お前は黙ってろ!!」
<勿論です!一番悠生様を満足させてあげられるのは僕だと自負してます!>
(オメーはもっと黙ってろ!!)

 いけしゃあしゃあとコイツらは!
 だが俺よりも佐伯はもっと怒りを露わにしてテーブルを叩いた。バンッと大きな音が食堂に響き渡り、食堂中の視線を集める。おいおい何する気だよ。

「騙されるなよ悠生!」
「騙されるー?」
「こいつが誑かしてきたんだろ!?大丈夫、俺がこんなヤツぶっ飛ばしてやるから!!」
「ああ?誰をぶっ飛ばすって?」
<ちょっと!ガラ悪いからやめてよ!!>

 佐伯の言いぐさに思わず凄んでしまった。いけね、これじゃ三鷹のイメージがただのチンピラになってしまう。とは言え、今更遅いのかもしれない。
 最初、藤島悠生以外の前では何とかキャラを作ろうと努力していたが、結局は藤島悠生とのやり取りを皆に見られるため、全校生徒からは「ご乱心」「反抗期」「ガサツ」「野蛮」とまで言われたほどだ。
 これに関しては三鷹に謝り倒した。とにかく、三鷹らしく振る舞えずにごめんと。でも、意外に三鷹は怒らなかった。少し不満そうではあったが、そのままで別にいいと言ってくれた。何でだろうと思うが、三鷹がその理由を俺に教えてくれることはなかった。

「やるのかよ…」
「は?喧嘩なら買うけど?」
「亮太?駄目ですよ、そんな野蛮人を相手にしたら」
「リョータ、め」
「だってこいつが悠生を…!」

 しかし佐伯は怯むことなく俺に向ってくる。そんな佐伯を、取り巻きが宥め俺から引き離そうとする。つか誰が野蛮人だ。苛々と佐伯とその取り巻きを眺めていると、突然隣から引っ張られ、そいつの胸の中に引き寄せられる。
 え?なに?何でお前が俺の頭を抱えんの?

「リョータさ、あんま三鷹くん煽んないでよー。三鷹くんを本気にさせるのは俺だからさぁ」
「な、ゆ、うせい?」
「後で遊びに行くから、向こう行ってよ。早くしないとアイス溶けるしぃ」
「で、でも!」
「リョータ」

 それでも食いついていく佐伯に、最後藤島悠生が強めに佐伯の名前を呼んだ。それは意外にも佐伯に効いたらしく、グッと息を呑んだ佐伯は、悔しげに唇を噛み、グルリと背を向け俺達の前から去って行った。取り巻きの二人がめっちゃ睨んで来たけど気にしない。
 けど、正直驚いた。まさかこいつが俺を…三鷹を庇うようなことを言ってくれるなんて。

「ふぅ、さ。アイス食べよ?」
「…お前が食えよ」
「えー、一緒に食べようよー!」

 まるで何事も無かったかのように俺に笑顔で話しかけてくる藤島悠生を見て、先程まで燻っていたイライラが徐々に薄れていくのを感じた。何でかな、あんまりにこいつが普通にしてるから、何か俺がこうしてイライラしてるのが馬鹿みたいに思えた。
 何だろうな、人の事貶したり庇ったり、ホントこいつよく分かんない。


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