伝説のナル | ナノ


25

「俺、そんな顔してます?」
「うん。してる」

 自分では普通にしてるつもりなんだけどな。でも周りから見ればきっと酷く情けない顔をしているのかもしれない。俺は小さく笑いながら、何でもないですと那智先輩に返した。先輩は優しい笑みを崩さず、そっかと呟くだけでそれ以上は聞いてこなかった。

「にしてもー…珍しい組み合わせだねぇ」
「え?」

 那智先輩が、本当に不思議そうな声を出した。一瞬何のことか分からなかったが、先輩が清水の方をチラリと見たから、俺と清水のことを言っているのだと悟った。

「一緒の班なんです。今日は俺の居残りに付き合ってもらいました」
「居残りー?」
「俺、上手くランプに火を灯せなくて、ホント駄目ですね」

 那智先輩や清水の様に上手く使いこなせるようになりたいなと思う俺を余所に、先輩は何か考える様に顎に手を当てた。

「先輩?どうしました?」
「……ううん。何でもなーい」

 そう言ってパッと笑った先輩は、俺の横から少しずれ前を歩く。その後姿を不思議に思いながら見つめ、俺達は寮を目指した。





 宗介の帰りが遅いから、迎えに行った。
 この時期は少し心配だ。凪があんな風になってしまうくらい、此処の所変化が出て来てる。それに宗介が巻き込まれる心配だってある。だから少し過保護と思われるかもしれないけど、俺は彼の姿を探す。
 案の定、珍しい組み合わせではあったけど宗介を見つける事が出来た。何であの清水と居るのかは班員だかららしい。けど、俺にはそれさえも見えない力が働いた結果なんじゃないかと思ってしまう。まあ、疑っていたらキリがないんだけどね。でも、清水の力は本物だ。ガーディアンになれる資質は十分持っている。
 まあ、凄く複雑だけどね。ホント、ライバルが増えるのは嫌なんだけど。でも、宗介を護る為にはガーディアンの力は絶対必要だ。だから、俺は誰がガーディアンだろうと構わない。俺は、俺のやるべきことをやればいいだけだから。

「あの、先輩…」
「ん?」

 寮の前で清水と別れた俺達は、宗介の部屋に向っている。一人で帰れると言う宗介の言葉を無視して、俺は宗介の横を歩く。そんな時、宗介が控えめに声を掛けて来た。

「先輩は、会長と仲…良いんですか?」
「かいちょー?ああ、晃聖ねぇ」

 劇を通して少しは仲良くなったのか、宗介から晃聖の話が出るとは意外だったな。でもその質問内容は凄く答え辛い。

「うーん、俺は晃聖好きだけどねー。向こうはどう思ってるか分かんないよ?」
「でも、会長の事よくご存じですよね?それは本人が話してくれたからじゃないんですか?」

 確かに、晃聖のお母さんの話とかは晃聖が自分から話してくれた。俺にはそれも意外だったな。まさかそんな立ち入った話を俺と、後尚親にまでしてくれるなんて。尚親は勿論「知るか」の一言で一刀両断だったけど、その言葉に晃聖は少し笑って「そうだな」なんて返していた。あの頃を思うと懐かしいな。

「ま、少しは信用されてるかもね」
「そうですか…あ、あの。それで…」

 今度は宗介が言い辛そうに言葉を濁した。ああ、もしかしてあの時の寂しそうな顔は、晃聖の事で何かあったからなのかな?だったら、少し妬ける。宗介にあんな顔させるなんて。それだけ、宗介が晃聖の事を考えてるって事だから。
 でも、大切な子の相談だからね。なるべく嫉妬心はしまって笑顔で応えないと。

 ――ああ、それに、もう一つ伝えたいことがあったんだ。
 あのね宗介。晃聖はね、宗介のこと――。

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bkm