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「つ、次に、ガーディアンの継承を始めます」
司会進行の先生も、少し戸惑い気味になりながら事を運ぶ。それ程目を引くのだ、先輩の姿が。そして横一列に並んだガーディアン達の前に、前のナルと同じぐらいの歳の人達が並ぶ。恐らく、あれがきっと前のガーディアン達なのだろう。皆揃って右腕に紋様がある。チラリと凪さんを見ると「あれはシールですよ」と小声で教えてくれた。
「火のガーディアン、日比谷尚親」
「はい」
名前を呼ばれ、一歩前に出て来たのは何と日比谷さんだった。しかも火属性だったのか。髪が赤いせいか、何だか納得してしまう。そして日比谷さんに、前のガーディアンの人が近寄り、日比谷さんの右腕に手を当てた。すると、その腕から紋様が消えたかと思うと、今度は日比谷さんの右腕に紋様が現れた。成る程、前の人の紋様をそのまま受け継ぐのか。でも、それじゃあ大樹は?
「次、大地のガーディアン、高地大樹」
「……はい」
何か凄い間があったぞ。そして見るからに嫌そうな顔の大樹が前に出る。そして日比谷さんと同じようにするかと思いきや、前のガーディアンの人から紋様が受け継がれる事はなく、「頑張りなさい」と言われ肩を叩くだけに留まった。まあ、もう本物の紋様を持っている大樹からしたら、同じ右手にもう一個紋様があっても邪魔なだけだしな。
にしても、俺としては耀のガーディアンになってしまったと言う事実は寂しいけど、ガーディアンに選ばれると言うのはもう出世したも同然。なのに、何であんまり嬉しそうじゃないんだろう。大樹があまり耀を好きではないのは分かったけど、出世したと言う事に関しては喜んでも良さそうなのに。
「次、光のガーディアン、白河晃聖」
「はい」
今度は会長。そしてその次に何と南井と、相馬だ。彼らが並び、その隣にはこの間居た生徒会の副会長だ。南井は風、相馬は雷、副会長さんは水だそうな。そして、最後……。
「次、闇のガーディアン、黒岩那智」
「……はい」
何かこっちも間があったぞ。にしても、那智先輩怪我大丈夫か?何だってあんなボロボロになってるんだ。病院に居たなら傷ぐらい治してもらえただろうに。そんな俺の心配が伝わったのか、凪さんが隣で小さく笑った。
「あの傷は、昨日俺と手合せして出来た傷ですよ」
「ああ、成る程。昨日出来た傷……って、えぇ!?」
思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。良かった、そんな響かなくて。誰も見ていない。
「な、何でまた…」
「色々ありまして。ああ、あいつの左頬は起きた時俺が殴った痕なので、昨日の傷ではありません」
気にした様子もない凪さん。つまりあの傷は全部凪さんからつけられた傷なのか。でも包帯グルグル巻く程酷い怪我を負って、それでも式に出ているなんて、凄いな先輩。変な所で感心していると、紋様の移行が始まろうとしていた。しかし、一向に終わらない。何故なら、那智先輩が腕を出さないから。
「キミ、早く腕を」
「要らないよ、そんなモノ」
「なっ、何を言っている!」
急かすガーディアンの人に、那智先輩は笑いながらそう言った。そしてがなるその人の横をすり抜け、那智先輩は舞台の端で座っている耀の前に立った。先輩の行動に、会場はもう騒然だ。だからと言って手荒く捕まえられないのは、彼がガーディアンになる存在だからか、それとも黒岩家だからか。それは分からない。でも凪さんが動かなければ、きっと黒服の人達も動かないだろう。
凪さんはただ静かに先輩を見ている。
「那智、何しているの。早く戻れ。これは命令だ」
「……命令、ねぇ。アハハ!」
耀の言葉を聞き、那智先輩は可笑しいと言わんばかりに笑い声を上げた。耀の顔つきが変わっていく。
「何笑ってんだよっ」
「耀を初めて見た時、割と好感持てたよ。信念を持つ子は嫌いじゃないし、俺が必要とされていたいと思ってたのを、分かっていたろ?」
憤る耀を余所に、話し始めた那智先輩。そう言えば、先輩は最初耀の傍に居たよな。
「だから、傍に居ればもっと何か掴めるかと思って傍に居た。今も別に、耀の事嫌いじゃないよ」
「な、なにを…」
「それに尚親も晃聖も、何だか興味あったみたいだし、余計に気になってさ」
でも、と続けた那智先輩は、徐にグルグルの包帯を取り始めた。
「――俺に命令していいのは、俺の主だけだから」
お前の命令には従えない。そう言って笑う那智先輩の首元に、会場中の視線が集まる。そして一瞬のどよめきが起こる。包帯が全て取れ、そこに現れたのは紋様――ラグーンの紋様だ。耀も、自身を見下ろす先輩の首元を見て、驚愕している。先輩に、いつの間にかガーディアンの力が戻ってる。それに驚いて呆然とする俺の横で、凪さんだけは、先輩を見て優しく笑っていた。
*
こうして、継承式は会場が騒然としたまま終わった。
そして魔導士界に広がる。
――二人目のガーディアンが現れたと。