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あれ、此処どこだ?
俺は一体何してる?
なんで、どうして目が開かないんだ。
暗い。何もかも真っ暗だ。
『今はまだ早い』
……誰だ?
早いって、何が早いんだ。
『悪いけど、忘れてもらうよ』
そう言って笑う声を、俺は知っている。
そうだ、この声は――。
『ごめんね、宗介』
*
「――ッ!」
ハッと、急に意識が浮上した俺は目を覚ます。目の前に広がる景色は、俺の知らない場所だった。白い部屋、そして独特の薬品のニオイ。フと自分の腕を見ると、点滴を打っている最中の様で、管が繋がっていた。それで理解する。ああ、ここは病院かと。しかし分からない。なんで俺、こんな所に居るんだ?だって俺はあの時、先輩を捜して……。
「っ、そうだ」
俺は那智先輩を捜してたんだ。それで教室で先輩と会って、闇に呑み込まれた先輩を助けたくて俺も闇の中に入って……それで、その中で先輩の記憶を見て、それで、それで……?俺は、何をしたんだっけ?
何だこれ、全然思い出せない。
「――宗介!」
その時だった。俺の名前を呼ぶと同時に、誰かがガラッと勢いよくドアを開け入って来た。その声に弾かれる様にそちらへ顔を向けると、そこに立っていたのは息を切らした剛さんだった。
「あ、剛さ…」
「宗介、大丈夫か!?何処か痛いとことか、気分が悪いとか、何もないかっ?」
「え、あ、はい。大丈夫です。あの、俺……どうして病院にいるんですか?」
俺の様子を窺い、大丈夫だと判断したのか、剛さんはホッと一息ついた。そして、いまいち状況が出来ていない俺に、剛さんがこれまでのことを話してくれた。
俺と先輩は、俺が先輩を見つけた空き教室に倒れていたらしく、どうやら俺はそれから三日間眠りについていたらしい。原因は魔力不足と闇の力による精神的ダメージだそうだ。一方の那智先輩は翌日には目を覚まし、昨日には学園に戻され、今は寮で安静にしているようだ。良かった。先輩、無事だったんだ。
「にしても、那智のヤツ此処に残るって聞かなくてな。凪が蹴とばしながら学園に連れ戻してたぞ」
「此処から学園は遠いんですか?」
「いや、一時間も掛からない。此処は学園と提携している魔導士の為の病院だからな。あんま離れてたら困る」
確かに、普通の病院じゃ魔力不足と言っても治療出来ないだろう。あれ、でも俺なんで魔力不足なんかになっているんだ?魔力がないに等しい位に魔導も使えないし、使った覚えもないのに。
「宗介?」
剛さんに言った方がいいのだろうか。記憶がないと。いや、でもきっと凄く心配してくれたんだ。あんなに息せき切って走ってきてくれたんだし。その上記憶がないなんて知ったらもっと心配かけてしまう。それだけは避けたい。
浮かない顔の俺を見て剛さんが不安げに俺を見ていたが、俺はそれに「すいません、何でもないです」と笑顔を返した。大丈夫だ。別に少しの間の記憶が抜けているだけだし、そんなに心配することでもない。そう言い聞かせ、俺は話題を変えるべく、気になる事を質問した。
「それはそうと、俺も退院出来るんですか?」
「あ、ああ。その事なんだが……目が覚めたからには、検査して直ぐにでも学園に戻らなければならないんだ」
俺の質問に、今度は剛さんが浮かない顔をする。一体どうしたんだ?
「まだ本調子じゃないお前をこんなに早く動かしたくないんだが……週末、式が執り行われるんだ」
「式?何の式ですか?」
こんな半端な時期に行う式なんかあったか?首を傾げる俺に、剛さんが大きなため息をつきながら言った。
「今のナルが、次代のナルに名を継承する式」
――そして、ガーディアンも正式に就く。
そう。それは、耀が正式にナルになる為の継承式なんだ。