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「つーか、何でお前らまで着いてくんだ」
「俺は貴方の護衛ですから」
「俺は宗介の護衛ですからー」
「うぜ……いいか、絶対邪魔すんなよ」
運転席で二人を睨む剛さんに、凪さんも那智先輩もただ笑うだけ。俺はそんな三人のやり取りを見て思わず小さく笑った。
今日は約束の日曜日。昨日の夜から待ちわびていた。ソワソワと何処か落ち着きのない俺を、蓮と大樹が不思議そうに見ていたのを思い出す。二人にも話しておいた。俺が髪を切らなかった理由を知らない蓮は、ただ散髪するだけと思っているのだろう。行ってらっしゃいと言ってくれた。対して大樹は微妙な顔していた。俺が髪を切ることに賛成してくれないのかと思って思わず顔を俯かせると、慌てたように否定した。
「髪切るのは賛成…だけど、宗介の素顔を皆に見られるのはちょっと残念」
「前の学校でだって部活中はあげてたろ?」
「前と此処とでは話が違う。此処は色んな意味で特殊だから」
そう言うもんか。けど、反対している訳じゃないなら良かった。
「大樹なんか既に信者がいるよね。姫に逆らったからどうなるかと思ったけど、さすがガーディアン」
「嬉しくないって」
「信者…?」
「Sクラスの人達の大半は信者がついてると思うよ。その人の強さや容姿に惹かれて、神のように崇め尽くす…まあそんな感じに思ってもらえればいいよ」
何だか凄いなそれ。でも大樹を見ると本当に嬉しくなさそうだ。
「まあ、とにかく楽しみにしてるよ」
「そうだな。楽しみにしてる」
再び散髪の話に戻り、二人がそう言って笑う。
「てか、宗介此処からどうやって行くの?結構街まで歩くのには時間かかると思うけど」
「そう言えば此処の備え付け美容室じゃないんだよね」
思わずギクリとする。流石に此処で剛さんの名前を出すのは駄目な気がして、俺は考えを巡らせる。あ、そうだ。
「凪さんに連れてってもらうんだ」
「えっ?」
「……前も思ったけど、宗介さ、何でそんな大物と知り合いなの?凪さんてあの雷霆でしょ?」
大樹は一瞬驚いた声を上げ、複雑そうな顔をする。まあ、この間のこともあったしな。一方の蓮は本当に意外そうな顔で俺を見る。と言うか、今なんて言った?
「雷、霆?」
「……俺もまさかあの人がそうだとは思わなかった。学園の番人ってだけでも驚きだったし。魔導士界でその名前を知らない人はいないと言われる、魔導士最強の『雷霆』がまさかあの人だなんて」
「ほら、凪さんて雷を操るじゃん?一瞬で仇なす者を消し去るその姿は、ゼウスの雷霆そのモノだとか何とか言われて付けられた通り名が雷霆なんだ」
まあ本人はその呼び名好きじゃないみたいだけど。そう言って笑う蓮に、凪さんを思い浮かべる。凄く強くて偉い人だとは思っていたけどまさかそこまで有名だったなんて。俺そんな人に色々迷惑かけてるのか。本当に申し訳ない。
「そう言えば、番人になるのってそんな凄いことなのか?」
「ああ、うん。学園の番人になるには、この学園に認められないといけないんだ」
「学園に?理事の人とかにか?」
「ううん、人じゃないよ。この学園ってさ、実はとある人の力によって今も動かされてるって話なんだ」
蓮が目を輝かせながら話し出すのを聞いて、俺は若干身を引いた。何となくだけど、蓮は結構噂とかそう言うの好きそうな気がする。
「それがここの創立者であるナルなんだって」
「……は?」
その言葉に目が点になる。何言ってるんだ。だってここの創立者は百年以上前に死んでいるはずだろ。
「ホントかどうか分からないけど、番人になるにはナルの許しが必要で、その証が凪さんが左手首にしているブレスレットらしいよ」
確かに凪さんは腕輪を左手首にしている。あれが番人の証。と言うことは、凪さんはここの創立者にあったのだろうか。最後のナルと言われた人に…。
「まあ凪さんが本当にナルに会ったのかは分からないんだって。何しろ冥無に入学するときにはもう腕輪をしていたらしいよ」
「入る前からつけてたってことかっ?」
「多分ね。だから学園側も困惑したらしいけど、番人の腕輪がある以上、学生という身分でも番人の仕事を任せたらしいよ」
大樹も酷く驚いているようだ。俺もあまりに現実味がなくて中々飲み込めない。何というか俺、凪さんの事ってほぼ他人から聞いたことばかりな気がする。凪さん本人に教えてもらったこと、殆どないんじゃないか?俺が聞かないのがいけないのかもしれない。どうせ答えてもらえないなんて思っているから。
でも、聞いてみたい。出来ることなら、凪さんや剛さん、那智先輩の話を――。
「あ、あの!」
突然声を上げた俺を、皆驚いたように見る。
「どしたの?突然大きな声出してー」
「ぼっーとしていた様ですが、具合が悪いのですか?」
考えに耽っていたせいで静かだったから、突然大きな声出したら、確かに変だよな。
「宗介?平気か?」
「あ、大丈夫です…ただ…」
そこで言葉を切った俺は一呼吸入れ、意を決して声を出す。
「皆さんの話を聞きたくて…その、個人的な事を…」
顔が熱い。心臓がうるさい。これしきのことで緊張するなんて、周りからしたらおかしな話だろう。けど、俺にとってはとても勇気のいること。しかもこうして反応がないとなおのこと緊張する。