伝説のナル | ナノ


28

「宗介に触るなッ!」
「そんなの、お前に言われる筋合いないんだけどー?」

 サイレンの音が鳴り響く中、食堂のあちこちを移動しながら二人が何か叫びながら争っている。その話の内容は大樹が発動させる魔導とサイレンで掻き消されて分からない。食堂に来た生徒は突然の騒ぎに巻き込まれまいと食堂を出て行く者と、何故か遠巻きに見始める者の両極端だ。何故誰も止めないんだろう、そう疑問に思っていた俺だったが、日比谷さんの呟きに全て納得がいった。

「ガーディアンとあの那智との闘い…面白くなりそうだな」

 だから、皆興味津々に見ているのか。けど、耀の表情は優れない。寧ろ存在を無視していた俺を睨み付けていた。何だ突然。大樹との会話が中断されて怒っているのか?けど、理由はどうあれ大樹が耀の傍を離れたことに内心ホッとしている自分は本当に汚いヤツだ。そして、グッと唇を噛んだ時だった。

「砕けろ!」

 いつの間にかサイレンの音が消えていた。そのお蔭か、大樹の声が食堂に響き渡り、言葉通り巨大な岩が砕け、無数の槍の様な形になり、那智先輩の上に降り注ぐ。思わず声を上げそうになったが、落ちてくる鋭い岩をものともせず、那智先輩はそれを全て避けていく。しかも、上を見ている訳でもないのに落ちてくる場所が分かっているかの様な滑らかな動きに俺は息を呑んだ。何だ、あの人。あんなに強い人だったのか?
 以前南井と話していた時、学園最強と言う単語が出てきて、那智先輩はそれを否定していたけど、本当に最強なんじゃないか?そう思うほどに彼の動きは俺の想像を超えていた。そして、全ての岩が地面に突き刺さる。それを身を翻して避けた那智先輩が、酷く冷めた顔をして、息を吐く。

「――鬱陶しいヤツ」

 冷たく突き刺さるような声色で吐き捨てられた呟き。それを聞いた瞬間、俺は叫んだ。そして大樹の元へ走り出す。

「先輩ッ、駄目だ!」

 何故だか分からないが、先輩の目が金色に光ったのを見て、ヤバいと思った。こんなに近い距離なのに、大樹までの距離が遠い。急いで大樹の元に行きたいのに。しかしそんな思いも空しく、那智先輩は最後に避けた岩の影から物凄い速さで大樹の元に走っていく。あっと言う間に詰められた間合いに俺や周りは勿論、大樹までもその動きについてきていなかった。
 そして彼の手に、白銀に光る刀身の刀がいつの間にか握られていた。それが躊躇なく大樹に振り翳される。

「っ、大樹!」

 間に合わない――!
 誰もがきっとそう思っただろう。しかし、キンッと耳に響く金属音。そして、二人の間に立ち、那智先輩の刀身を受け止めるあの黒い日本刀は……俺達は目の前の光景にただ愕然とするしかなかった。那智先輩も、まさか凪さんが間に入ってくる思わなかったのか、目を見開いて固まった。そこを見逃さなかったのか、凪さんは受け止めた刀を押し返し、その反動で後ろに傾いた那智先輩の腹を思い切り蹴とばした。そのまま勢いよく壁に激突した那智先輩は、口端から血を流しながら苦しげに咳き込む。
 そして大樹も、そのまま頭を鷲掴みにされて床に叩き付けられる。突然の痛みと衝撃に呻く大樹の顔の横に黒い刀身が突き立てられ、大樹は目だけで自分を見下ろす凪さんを睨み付けた。

「――二年Sクラス高地大樹。三年Sクラス黒岩那智。生徒間の魔導使用での争い及び学園内の破壊行動とみなし、両者校則違反で連行する」

 連れて行け。そう言って冷たい声で、冷たい表情で淡々と、入り口からやってくる黒服の人達に命じる凪さんに、俺の心臓はまた嫌な音をたてた。
 凪さん、何で俺の方を一度も見ないんだ?
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bkm