伝説のナル | ナノ


26

 どうして、何で大樹は怒っているんだ?俺は滅多にみない友人の姿に狼狽える。どうしよう、俺何したんだろ。

「ちょっとー今良いとこだから邪魔しないでくれるー?高地大樹」
「お前…ッ!」
「てか、この手…離せよ」

 そう言って那智先輩はもう一度「離せ」と低く唸るように言った。その瞬間、ブワッと那智先輩の周囲を黒い影が纏うように蠢く。一瞬で危険を察知したのか、大樹は素早く那智先輩から離れ距離をとる。

「へえ。勘が良いねぇ」
「……闇属性、か」

 ポツリと大樹が呟く。闇属性…光と同じくそんなに多く存在しない稀少な属性らしい。兄弟だから同じ属性って訳じゃないんだな。

「便利なもんだよ。この程度の魔導なら警報機に引っかかって凪が飛んでくることもないし」

 何でもこの装置は生徒間の魔力を使った争いを防ぐためのもので、強い属性魔導を使うと鳴り、すぐに学園を守る凪さん達が飛んでくるらしい。凄く便利だ。

「どうでもいい、そんな事。それより宗介に近づくな」
「俺がその言葉を聞くとでも?」

 まさに一触即発の雰囲気に俺は二人の顔を見る。大樹も那智先輩も怖い顔して睨み合っている。そして那智先輩が魔導を使ったせいか、周りがザワザワと騒ぎ出した。皆俺達の様子を見ている。ヤバい、このままじゃまた先生とか呼ばれて連れていかれるんじゃないか?そう思ったら勝手に身体が動いて、二人の間に入り込んでいた。

「と、取り敢えず二人とも落ち着いて…」
「宗介。退いてて」
「駄目だ。大体此処で事を荒げたらまたお前…!」

 大樹が連れて行かれるのは嫌だ。俺はそう思っているのだが、大樹は俺が那智先輩を庇っていると勘違いしたらしく、「何でそんな奴を…っ」と悔しげに唇を噛み、ツカツカと早足で俺に歩み寄ると、強い力で両肩を掴まれた。少し痛い。

「好きなの?その男が」
「え?」

 俺の肩を掴むと顔を俯かせてしまった大樹は、小さく震える声で呟いた。なんだその質問。思いもよらぬ問い掛けに少し面を食らったが、俺は正直に答えた。

「えっと、普通だけど?」
「宗介酷い!」
「別に嫌いじゃないですよ。だってその、と、友達ですし…」

 自分で友達とか言うのは恥ずかしいな。少し照れながら言うと大樹は目を見開く。俺の肩を掴む力が少し弱まった。

「なら、何でキスなんかしてるの…?」
「え、友達同士だから?」

 仲直りのキスだって。大樹も知ってるはずだろ?そう言った瞬間、大樹の顔が赤く染まり、ワナワナと身体を震わす。再び肩を掴む力が強くなったかと思うと、「じゃあ!」と突然声を大きくした。怒りを宿した瞳に俺は慄いた。

「俺がキスしても問題ないわけ?」
「は…いや、別に俺はお前と喧嘩してないし…」

 まあ那智先輩とも喧嘩したつもりはなく、ただ一方的にいじけられただけなんだけど。

「友達同士なら、別に構わないんでしょ?それとも俺はイヤ?」
「だ、大樹?何言ってるんだ?」
「俺だって、俺だって宗介と――!」
「おい!大樹!」

 大樹がそう叫んだのと、誰かが大樹を呼ぶ声が被り、結局何を言ったのか俺には聞こえなかった。しかも大樹はその声を聞いた瞬間、うげっ!と顔をしかめ、少し青ざめながらゆっくり後ろを振り返る。
 俺は俺で何というタイミングで来たのかと、耀とその仲間たちを見て思った。今以上に面倒なことになるぞこれ。
[ prev | index | next ]

bkm