伝説のナル | ナノ


24

 とうとう迎えた冥無学園での学園生活、俺はKクラスの札がかかる扉の前に立っていた。他のクラスが日当たりの良い南に集中しているのに対し、何故かこのクラスだけ少し離れた北側の端にあり、他のクラスの生徒がクスクスと此方を見て笑っている。いや、俺の場合このクラスの人達にも笑われるだろう。何しろ昨日、俺は前代未聞の記録を成し遂げたしな。けど、信じてくれている人がいるって分かっているだけでも俺はこの先やっていける。よし!と意気込んだ俺は、押して開く木の扉を開け、教室内へ踏み込んだ。

「え…?」

 思わず間抜けな声を漏らす。それもそのはず、俺の想像していた教室の風景とは大分違っていたから。何か机の数、凄く少ないぞ。しかも、教室内には既に十人程度の人が揃っていたのに、誰一人として俺の方を見ず、机の上で静かに教科書を読んだり、突っ伏して寝てたり、様々だった。何と言うか、自由な空気が流れている。
 取り敢えず扉の所に立っているのも何なので、黒板に貼ってある座席表を見て、自分の席を探す。ラッキーなことに一番後ろの窓側だった。まあ此処は北だから日差しは期待できないけど。そそくさと一番後ろに行き、椅子を引いた俺は、改めて辺りを見渡す。とても、落ちこぼれの集団には見えないな。俺が落ちこぼれすぎるからかもしれないけど、とにかくこのクラスが俺の想像を超えているのは間違いない。
 フと、隣の席に目をやる。そして向うも俺を見ていたのか、バッチリ目が合った。いきなりの事で「あ、う…」とよく分からない言葉しか出てこない。此処でちゃんと話し掛けられれば大樹の手を煩わせずとも友人を作ることも出来るだろうに、やはりこういう場では上手くいかない。次の言葉が出ず、もたもたとしている間にも、再び教室の扉が開き、若い男の先生が入ってきた。折角俺の方を見ていた隣も、前を向いてしまった。

「全員揃ってるか?まあホームルームだけとは言え最初だしな、出席とるぞ」

 教壇に立った先生は、黒のネクタイ緩めながら、少し気だるげに名簿を眺め、そして名前を呼んでいく。え、本当にこれだけの人数なのか?俺を含め十五人しかいないぞ。意外と広い教室には少ないとは思っていたけど、やはり少し特殊なクラスなのかもしれない。

「安河内宗介」
「あ、はい」

 名前を呼ばれ、意識を再び先生へと向ける。一瞬先生が目を眇めた気がしたが、すぐに他の生徒を見てしまったので、本当に気のせいだったのかもしれない。出席を取り終わったのか、欠席は一人だけのようだった。登校初日に休むやつも居るんだな。

「さてさて、見事Kクラスに入った諸君は、言わば落ちこぼれと蔑まれる訳だが」

 本題、と言うように、先生が少しチャラチャラした雰囲気を押し込んで真剣に話し出した。

「自分が此処に選ばれた理由は分かるだろ。そして此処ではそれを重点的に直していく。そう、お前たちに足りないのは魔力量云々ではなく、マジックコントロール…魔導操作だ」

 思わず首を傾げる。何だ、マジックコントロールって。

「魔力を自分の意志でコントロールさせ、魔導の発動に繋げる…それを行う精神力がお前らは圧倒的に足りない」

 何でも、それが出来ないと魔導は上手く使えないし、最悪自分の魔力が暴発して死に至ることもあるそうだ。ヤバい、暴発するほどの魔力が俺にないとしてもそれは怖い。

「だからこの一年、徹底的に精神力を鍛えるぞ。他のクラスとはやることも違うしキツイ内容かもしれないが、根を上げずに着いてこれたらお前ら卒業する頃にはエリートの仲間入りだ」

 おお、と少し興味関心の無さそうだった生徒たちがわいた。

「まあ比較的お前ら頭はいい方だし、俺は心配してねーよ」

 だから頑張んな。そう言って笑った先生は時計をチラリとみて、少し困ったように唸る。

「配布物配って、書くもの書かせても時間余るな。まあ、仕方ないか。初日だし。今日は寮に帰って寝てろ」

 さっきまでの真剣な空気が一気に飛んだ。何と言うか、凄くテキトー感溢れる先生だな。けど何だかやっていけそうな雰囲気に、俺はホッと一安心した。
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