伝説のナル | ナノ


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 魔導士――七つの元素を自在に操れる魔導の力で絶対的な力を持つ者。国を作り、時には国を滅ぼしたと謂われる伝説上の存在。そんな話を、遠い昔に誰かがしてくれたっけ。でもまあ、そんなのは所詮作り話。それを信じるのはせいぜい小学校上がり立ての頃までだ。だから今年受験を迎え、今まさに勉強の忙しさに追われピリピリしているこの時にだ。こんな冗談に付き合わせるヤツの顔が見てみたい。そして出来ることなら殴りたい。

「美月冥無学園案内書…ね」

 魔導指導から基本戦術まで徹底的に教えます!これで貴方も魔導士に!と、物凄く怪しい謳い文句がババンと大きく書かれた入学の案内書。みつきくらむがくえん…やべぇ、すっげーヤバいぞこの学校の名前。何だろう、一度入ったら一生出れなさそう。
 にしても悪戯にしては凄く手の込んだ内容だ。しかもご丁寧にその学校(偽)のシンボルのつもりか、ドラゴンの印が押された封蝋までしてあった。いや、恐れ入った。よし、こんな悪戯を仕込んだその苦労と努力に免じて、俺はこれを大事に取っておくことにしよう。て言うかこんな悪戯をされたなんてアイツに知られたら――。

「おい、宗介!お前宛てに手紙が来たんだって?明日は槍でも降るんじゃないか!」

 うげ!何でそれを!
 もうすでに手紙の存在が知られているとは誤算だった。だが内容までは知られていないようだ。それがまだ救いだな。

「耀ちゃん。そんなの相手にしては駄目よ。貴方は今、大切な受験の時期なのだから」
「分かってるよ、母さん!」

 さあ、ご飯が出来てるわよ。行きましょう。
 そう言って扉の前で騒いでいた厄介者と厄介者2の気配は扉から遠ざかり、一階へと降りて行った。ふう、危ない危ない。手紙を奪われてなんか見ろ、明日俺のクラスの黒板に絶対張り出すぜアイツ。て言うか、大切な受験の時期なのは俺の方だっての。まあ、そんなの扱いにはもう慣れてるから別にいいけど。何しろ向うにとっては俺の方が厄介者だろうから。
 一つ溜息をつき、重たい腰を上げる。ご飯が出来てると言ったな。なら俺の分の食事も、彼らが囲う食卓とは違う、別の小さな机に用意されているだろう。俺は別にそれでいい。食べさせて貰えるだけマシだよな。

(まあ、本当の子供じゃないしね――)

 俺の両親が死んだのは、今から十年前の事だった。
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bkm