伝説のナル | ナノ


22

 俺は、一番端の機械の前に並んだ。大樹も一緒に。大体十人程度それぞれの装置の前に並んで、自分の番が回ってくるのを待っているようだ。しかし、何故か俺達の周りにだけ教師の人達が多く立っていた。何でだろうと思っていると、他の生徒も何故かチラチラと此方を見る。ああ、なるほど。大樹か。

「注目されてるな…」
「寧ろこれは監視、なんだけどね」

 そう言って大樹が困ったように笑う。ガーディアンと言う未知の存在を、教師たちは恐れているらしい。大樹が変な動きを見せたらすぐ拘束すると…何だよそれ。ムッとした俺の顔を見て、大樹が今度は嬉しそうに笑う。

「ありがとう…俺も気にしないから、宗介も気にしないで。ね?」

 大樹にそうお願いされたら、俺はもう何も言えない。教師たちに不満はあるが、仕方ない。

「――高地大樹、前へ」

 大樹が呼ばれた。辺りを見ると、他も皆始めているらしい。装置の前に立って、パネルに手を置いている。大樹は凛とした声で返事すると、臆することなく装置の前に立ち、皆と同じようにパネルに手を置く。
 コォォと装置が作動する音がし、俺は大樹の後ろからその様子を見守った。パネルに備え付けられたプロジェクターの様な形のそれは、前方へ光を放つと、徐々にその中心に小さく岩を形成していく。

「凄い、岩だ…」

 おお!と声を上げる俺に、発動を終えた大樹が振り返り、少し照れたように笑っていた。

「俺は土属性だからね。でも凄いなこの装置。少し魔力使っただけでこんな大きな岩出来るなんて」

 そう言って岩を見ると、俺達より遥かに大きく、そして重そうだ。実際重いらしく、大樹が発動を止めたせいで、重力に逆らえずゴスンッと大きな音を立てて落ちた。けど体育館に穴が開かないのは、魔導のお蔭なのかな。

「素晴らしい!あの装置であそこまでの物が作れるなんて!」
「あれが噂の大地のガーディアンですか。いやぁ、本物は違いますな」

 体育館の二階から大きな声がして、俺は上を見る。太ったオジサンと見るからに偉そうな少し頭が剥げ気味のオジサンが二人で大樹を褒め称えていた。誰だ?と首を傾げた俺に、大樹が嫌そうに小さな声で呟いた。

「この学園に寄付してくれてる企業のお偉いさんらしいよ。昨日もたまたま来ててさ、煩いのなんの」

 大樹の様子からするに余程嫌だったのだろう。可哀想に。けど、周りの生徒も驚いている位だから、お世辞とかじゃなくて本当に凄い事なんだろう。

「次、安河内宗介」

 俺の番だ。ビクッと肩が揺れたのが大樹にばれ、ポンッと背中を押される。頑張れ、そう言われた気がした。俺は大樹を一度見て、そしてすぐ視線を前へと戻す。装置の前に恐る恐る立つと、ドッと緊張が押し寄せてきた。今までの比じゃない。

「どうした。パネルに手を置きなさい」

 横に立つ進行役の人にそう言われ、震える手を置く。大丈夫、大丈夫だ。必死に自分に言い聞かせる。しかし、装置はうんともすんとも動かない。どうして、動かないんだ?少しの魔力でも動くと言っていたのに。

「何をしている。早く魔力をつかえ」

 俺の様子がおかしいのに気付いた進行役の人が大きな声で促す。その声に釣られ皆が注目する。ヤバい、急かされると余計に集中できない。焦りすぎて俺はとうとうパニックになった。駄目だ、全然駄目だ。やっぱり俺には出来ない。俺なんかには――。

「宗介!大丈夫!落ち着いて!」

 ギュッと目を瞑り、周りの騒音を聞かまいとしていた俺の耳に、大樹の声が届く。俺を笑う声や馬鹿にする声を一切無視したその声に、俺は全身の力が抜けたように感じた。そうだよ、何してんだ俺は。グッと拳を握り、再び装置に向き合う。
 今度はゆっくり目を閉じ、イメージする。そう、凪さんにも言われたじゃないか。落ち着いて、焦ったら凪さんのあの時の姿を思い出せと。あの時凪さんはどうしてた。そう目を閉じて、俺もあの雷をイメージしてみよう。パネルに置いた手に力が入る。もうこうなったら自棄だ。何でもいいから、あんな風に俺も魔導の力を出したい。

(頼む、応えてくれ――!)

 祈るように強く念じた。その時、コォォと装置が動き出す音が聞こえ、俺は出来たと喜んだ。やった、成功したと。しかし、俺の喜びは一瞬だった。俺の後ろで一瞬喜んだ大樹も引き攣った笑みのまま固まった。


 なぜなら、この瞬間俺のKクラス行きが決まったのと同時に、学年一の落ちこぼれの称号がついてしまったからである。

「…あの装置であの電流しか出せないヤツ、初めて見たぜ」

 俺の試験結果を見て、誰かがポソッと呟いた。その声に、俺も頷く。俺も、あれっぽっちの魔力しかなかった事に驚いたよ。ピリッと何かが光った程度の電気。周りも俺のその無能さに静まりかえっていた。
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