伝説のナル | ナノ


21

 実技の試験は全学年一斉に行われ、新一年は第一体育館。新二年は第二、新三年は第三体育館に分かれてやるらしい。因みに転校生の俺は要領が分かっていない為、新入生と同じ第一体育館に集合となった。
 約束の時間、言われたとおり第一体育館へ赴いた俺は、思わず後込みしてしまう。先程意気込んだ気持ちはどこへ行ったのか。しかし、この体育館の中の人の数を見たら誰だって怖じ気付く。それはもう沢山の生徒達でいっぱいだ。なのに、それでもまだ人を収容出来る体育館の余裕にさえ怖じ気付く。もうタジタジだ。

「宗介」

 ポンと、聞き慣れた声と共に肩を叩かれた。その声に反応して振り返ると、そこには昨日と何ら変わりない大樹が立っていた。

「大樹っ。お前、大丈夫なのか…?」
「ああ、うん。昨日の夜に解放して貰ったよ。教師の連中はあーだこーだ煩かったけど、学園長は手短に済ませてくれたし。まあ今度理事の人達とも話さなきゃいけないみたいだけど」

 そう言って大樹は面倒臭そうに溜め息をついた。黒岩さんの言うとおり、本当に話だけだったんだ。良かった。

「それで、学園長はなんて?」
「ん?ガーディアンとしての覚悟があるかどうか。それだけをきかれたよ」

 ガーディアンとしての覚悟とは一体何なのだろう。俺には到底分かりっこないことだろうが、大樹の穏やかな表情を見るに大樹はその意味が分かっているのかも知れない。何はともあれ、大樹が無事戻ってきた。それだけで俺にとっては十分だ。

「それより、これから実技でしょ?入らないの?」
「いや、なんか緊張しちゃって…」

 大樹、一緒に行こう。少し目線の高い大樹を見上げ、そうお願いすると、大樹は顔を赤くして勿論!と大声で返事をくれた。こんなに近いのにそこまで大きな声で言わなくても。
 とにかく中に入ろうと言う大樹と並んで、体育館へ足を踏み入れると、中にいた生徒が一斉に此方を見た。楽しそうに談笑をしていた人も、一人開始を待ちわびる人も、皆一斉にだ。

「あの人が…」
「…ああ。間違いない」
「カッコイイ…」

 凄い、一日で有名人だな大樹。会話の端々に出るガーディアンと言う言葉で誰のことを言っているのか丸分かりだ。ついでに初日に悪目立ちした俺も、大樹と一緒に入ってきたことで悪い意味で注目を集める。中学からの持ち上がりが多いのか、耀を擁護する声が多かった。皆人気者だな。

「宗介、いこ」

 グイッと大樹が俺の手を引っ張る。チラリと見た大樹の顔は酷く不機嫌そうだった。そりゃああんなに注目されたら、元々目立つタイプの大樹だって嫌だよな。

「大樹、平気か?」
「え…?平気かって、それ俺の台詞なんだけど」
「どうしてだ?」
「あーいや、宗介が気にしてないならいいんだ、うん。…けどなんか、宗介らしいなぁ」

 何故か大樹に苦笑された。俺は訳が分からず首を傾ける。ずっとそのままでいてよ、その言葉に取り敢えず頷いてみた。

「にしても、何だあれ」

 話題を変えるべく、俺は均等に置かれた三十台の装置を指差した。大樹もそちらを見て、ああと声を漏らした。

「あれは魔導発現機って言って、少ない魔力で魔導を具現化する機械だよ」
「へえ、よく知ってるな」
「まあやったことはないけどね」

 しかし、少ない魔力でこれをやったら、実技試験の意味がないんじゃないか?そう思ったのだが、大樹が聞いた話だと、あれは新入生用に用意した属性分けの機械らしい。新入生はこの学園に呼ばれた者が殆どで、既に学園側は彼らの属性を把握した上で入学させるらしい。だが今回の件があった以上、確かめない訳にもいかないと言う事になり、持ち上がりの新一年生も含め、皆でまず属性を確かめることにしたらしい。その後外に出て魔力量の試験と言う流れになっているのか。

「そう言えば宗介は?属性は何?」
「え…?」

 大樹が興味津々と言った顔で俺に問い掛けてきたが、マズイ。俺はそもそも属性が何なのかがよく分かっていない。さっき凪さんは自分が雷の属性だと言っていた。そして大樹は土だと噂で聞いた。確か七つの属性があって…。考え込む俺を見て、大樹がハッとした顔をする。まさかと言わんばかりの顔に、俺は頬をかく。

「もしかして、属性分からないの?」
「悪い…」
「あ、いや。謝る事じゃないけど…」
「どうした?」

 今度は大樹が口元に手を当て思案し始めた。尋ねてみたが、すぐに何でもないと答えが返ってきた。そう言われると少し気になるが、まあいいか。簡単にだけど…そう言って、大樹が属性について教えてくれた。

「属性は七つ。火、水、風、雷、土、光、闇に分けられ、基本魔導士は一つの属性しか宿すことが出来ない。しかも属性はもう産まれた時には決まってしまうモノなんだ」

 どんなに他の属性を宿したくとも、もうその素質を持ったらそれだけを極めていくしかできない。だから、それを補う為に、基本皆補助魔導を覚えるそうだ。効果は様々で、その効力は魔力に比例していく。なら、剛さんが使っていたサーチと言うあれも補助魔導だったのかな。

「けど、ナルは違う」
「無属性ってやつか。それって何なんだ?」
「俺も、いや、俺だけじゃなくて誰も分からないんだ。ナルに関する資料は本当に少なくて、ただ何にも属さないとしか謂われていない」

 何にも属さない。それがどう言う意味なのか分からないが、何にせよ、ナルが早く見つかるといい。学園側が大変と言う事は剛さんや凪さんが大変だと言う事でもあるだろうし。あれ、でも待てよ。確かガーディアンてナルなしじゃ存在しないんだよな。

「なあ、大樹。お前、ナルの正体知ってるのか?」
「え。何で?」
「だって、ナルと会ったからガーディアンになったんじゃないのか?」

 それとも何だ、祖先にガーディアンが居ましたとか、そう言う物語の様な事なのか。受け継がれる血、みたいな。しかし大樹はうーんと唸りながら首を捻った。

「残念だけど、ナルとガーディアンの関係も分かっていないんだ。けど、ガーディアンはナルを守護する役割を負っていた。だから――」
「だから?」
「……ううん、何でもない」

 そこで言葉を切った大樹は、何を思ったのか。俺には分からなかったが、何故か屈託のない笑顔で笑うから、それ以上は追及できなかった。

《――これより、属性調査を行う。各装置の前に速やかに並べ》

 そうこうしている間に、アナウンスが流れ、生徒たちが一斉に移動を始める。大樹と顔を見合わせ、頷き合う。よし、行こう。
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bkm