18
「俺、食堂での記憶が無くて…いつの間にか寝ちゃったんですかね。気付いたら部屋に居て、慌てて外に出たら、もう夜で…」
「んで、いつの間にか高地大樹は何処かに連行されてたと」
コクリと頷く俺に、黒岩さんは「またあのお兄ちゃんは…」と呆れたように笑っていた。凪さんが何だ?聞き返してみたが、何でもないとだけ返された。
「大樹、大丈夫でしょうか…?」
「んー?」
「連行されて、一体どんな目に遭っているのか、心配で」
俺は馬鹿だ。何であの場であの緊張感で寝たんだ。あの場で味方は俺しか居なかった筈なのに、本当に心底使えないヤツだ俺は。今頃大樹は――。
「ちょっと、何か誤解してない?」
「え?」
「別に連行って、そんな拷問かけるわけでも何でもないよ。ただ話聞くだけー」
俺の深刻さに首を傾げた黒岩さんは、あっけらかんとしながらそう言った。話を聞く?え、本当にそれだけなのか?
「あのさ、ガーディアンが現れたって言うのがどう言う意味なのか知ってる?」
「意味、ですか?」
「そう。本物のガーディアンが現れた。それはつまり――ナルが現れたって事だよ」
は?ナルが現れた?意味が分からな過ぎてハテナを沢山飛ばす俺に、黒岩さんが苦笑した。
「そもそも、ガーディアンはナルを守る七人の守護者。つまり、ナルなしでは存在しえない。けどそんなナルは此処何十年とその存在は確認されていない。俺達魔導士を導く存在のナルがいないとなれば、魔導士界も揺れる。そこで考えたのが、人為的にナルとその守護者を創り出す事だった」
「人為的に…?」
「うん。此処冥無学園がそれを行っているんだけど、ナル候補って聞いたことある?」
「は、はい。耀も、それに選ばれてるって…」
「そうそう。ナル候補って言うのは、この学園内でも特に優秀な魔導士達を選び、その中からナルを生み出そうって言う馬鹿な制度なんだけど」
「う、生み出すって、一体どうやって…?」
人為的に生み出すだなんて、そんな事本当に出来るのか?もしかしたら、身体を開かれるなんてことも――!
「言っとくけど、別に人体実験とかそう言うのじゃないよ。ただ、ナルの名を語れるだけだから」
「え?」
「だからナルになろうとするヤツは後を絶たない。将来は約束されてるし、皆は黙ってついてくる。導き手だからね。名ばかりのナル。それに就けられる名ばかりのガーディアン。それが今の魔導士界の実態だよ」
皮肉だよねぇと笑う黒岩さんは、笑ってはいるけど少し怖かった。
「ところが、今回は別だ」
「…?」
「正真正銘、本物のガーディアンが現れた。きっと、ナル候補だガーディアンは誰にするかなんて言ってた学園側は今頃大騒ぎだろうね」
学園側…剛さんも、大樹と話したのだろうか。でも、剛さんなら大樹の嫌がる事はしないだろう。そこだけは安心できた。
「そして、血眼になって探すだろうね」
「何を、ですか?」
「本物のナルをだよ。いつの時代も、ナルは絶対的な存在だからねー…」
そう言いながら天井を仰ぐ黒岩さんは、笑みを湛えたまま、何故か寂しそうに呟いた。
「俺も、ガーディアンになれるかな……」
その姿に、小さい頃からの夢だから。そう言っていた凪さんの言葉を思い出した。