13
何でこの人が此処に?浮かんでくるのはその疑問ばかり。でも彼の片手にはカレー。もしかして、これは俺の晩ご飯なのか?届けにきたのがこの人なのが気になるが、空腹の前では些細なことに過ぎない。
軽くお礼を言って俺はカレーを取ろうと手を伸ばした。
「お邪魔しまーす」
はずなのだが、俺の右手がカレーに触ることはなく、そのまま横をすり抜けた。カレーがすり抜けたと言うよりは、カレーを持ってる人が横をすり抜けたと言った方がいいか。ギョッとして後ろを振り返ると、彼はもう既にリビングにいるらしく、ガタガタと何やら音がする。なんだあの人。よく分からないぞ。
玄関で立ち止まってしまった俺は、どうするべきなのか迷う。このままリビングに行くか、それとも俺は外に出るべきなのか。大体あの人は届けには来たけど俺のカレーとは一言も言ってないし、もしかしたら違う人に届けにきたのかも知れない。俺のだと勝手に勘違いしただけで。とは言え、同室の人はさっきあの人と一緒に居たしな、何だろ。部屋間違えた?
考え出したらキリがない。ありとあらゆる可能性を引っ張り出していた俺は、取りあえず外に出ようと言う結論を出し靴を履いた。耀とかが此処に来たら俺耐えられないし。しかし、そう思いドアノブに手を掛けた瞬間、俺の手の上に違う人の手が被さってきた。ガッとそのまま掴まれ、少し開いた扉が再び閉められる。
「何やってんのー」
すぐ耳元で声がした。ビクリと身体が跳ね、反射的に振り返ろうとして止まる。予想以上に近い位置に顔があってそれ以上は振り返れなかったからだ。
「御飯いらないのー?」
一瞬合った琥珀色の瞳。それが、先程の食堂の時の冷たい印象とダブる。あの時は明確な敵意があった。なら今だって俺に良い印象はないだろう。なのに此処にきた。何を考えているのか分からなくて単純に怖い。
「それともどこか出掛けるの?なら俺も行くー」
思わずブンブンと首を横に振る。食べるかどうかを聞いたという事はやはりアレは俺のカレーだったのか。それはそれで良かった。しかしこの状況は宜しくない。この人がいる間は部屋を空けようとしていただけだから、付いて来られたら意味がない。
「あ、もしかして…」
俺の答えに不思議そうに首を傾げた銀髪の人は、分かったと言わんばかりの顔をし、徐に俺の前で膝を折った。えっ?と思ったのも束の間、ズキッと足に激痛が走る。
「足痛いんでしょ」
「ッ……」
そのままグイッと足を上げられ、バランスがとれずにドアにもたれ掛かる。突然の行動に少し不満げな視線を寄越すが、彼は特に気にした様子もなく、至近距離で患部をジッと見つめる。何だか余計にジクジクと痛みが増してくる気がした。
「な、んで…耀に蹴られたって知って…」
あの時はまだ騒ぎを聞きつけただけで、その場を見てなかったはず。
「あー、耀にやられたんだ。俺はただ食堂出て行く時に片足を庇ってる感じだったから言っただけー」
当たっちゃったー。そう言ってヘラッと笑う銀髪の人は、何を考えているのか、そのまま俺を横抱きにして持ち上げた。突然の行動にまたまた面を食らう。
「な、何して…!」
「手当なら俺がしてあげる。それより御飯食べてよー。せっかく俺が持ってきたんだからさー」
分かったから降ろして欲しい。そんな俺の願いは彼には通じず、まあまあと何故か宥められながらリビングへ運ばれていった。なんで足を痛めたのは見て分かるのに俺の気持ちは分かってくれないのか。やはり、人間関係って難しい。