伝説のナル | ナノ


12

《凪!テメェ何やってんだ!》

 携帯から剛さんの怒声が浴びせられる。そうなることが分かっていたのか、凪さんは電話に出る前に耳から離したところでボタンを押していた。俺にハッキリ届く位だから、かなり大きな声で怒鳴っているんだろう。

「見てたなら分かるでしょう。宗介くんが馬鹿にされて貴方は黙っていろと?」

 その後の会話は、凪さんが耳に携帯を当ててしまった為分からない。けど、見てたとはどう言う意味だろう。

「大体貴方が色々抜けてるからこうなるんですよ。態々お使いに行かされる身にもなってもらいたいですね」

 剛さんがその言葉に反論している姿が目に浮かぶ。思わず小さく笑った俺を見て、凪さんが突然通話をやめた。

「電話終わったんですか?」
「いえ、煩いので途中で切りました」

 いいのか、それは。剛さんの方が上司というか、上の立場な感じがしたのに、凪さんは結構剛さんの扱いが酷い気がする。

「大丈夫ですよ。まだ見ていますし」
「それ、さっきも言ってましたよね…」
「前に言ったと思いますが、学園長はサーチ能力に優れているのです。この学園内なら、恐らくどこも見渡せると思いますよ」

 へえ、と感嘆の息がもれた。凄い。やっぱり魔導学校と言うのは一味違う。俺の中に、ただ純粋に興味が湧き出てくる。幸先の悪い滑り出しだけど、これから頑張ろう。
 などと、これからの事を考えている内に、いつの間にか部屋の前まで来ていた。そして凪さんが思い出したかのように懐を漁り始めた。

「はい、これ」
「……これは?」

 俺の手の上に、ポンと置かれた長方形の機械。いや、これはどっからどう見ても携帯電話じゃないか?しかも今時のタッチするやつ。

「学園長から、これで連絡をしてくれと」

 連絡手段を決めずに貴方を帰すのだから、馬鹿ですよね。などと学園長への悪態を忘れずに、使い方のよく分かっていない俺に、簡単な説明をしてくれた。安河内剛、黒岩凪とアドレス帳の欄に二人の名前が並んでいて嬉しくなった。

「後、これを…」

 余程顔が緩んでいるのか、おかしそうに笑う凪さんは、そう言って紙を取り出した。いや、これはルーズリーフか?なんで?戸惑いを隠せず首を傾げた俺に、凪さんがまた笑う。

「高地大樹くんから、貴方へのお返事です」

 バッと反射的に紙に飛びつく。大樹から、俺へ?まさか返事が来ると思わなかった。どうしよう、凄く緊張する。というか嬉しい。恐る恐る四つに折り畳まれた紙を開く。そして、そこに書かれた言葉を理解するまでに数秒を有した。

「……待ってて?」

 たった四文字。真ん中に大樹らしい几帳面な字体でそう書かれていた。しかし、意味は解らない。一体待っててとはどう言う意味なんだろう。何処で待っていればいいんだろう。答えを求め凪さんに視線を投げ掛けても、ただ微笑んでいるだけ。大丈夫、それだけ言って彼はポンと頭をなでた。





 ポツンと共同スペースに身をおいた俺は、料理が運ばれてくるのをひたすら待つ。そろそろ凪さんが言っていた時間だ。ソワソワと落ち着かない俺は、チャイムも鳴っていないのに玄関へ向かう。凪さんはさっき、俺が部屋に入るのを見送ってから去っていった。俺にこれと手紙を届けるために来ただけのようで、変なことに巻き込んで申し訳なかったな。そう思って少し顔を俯かせた瞬間、部屋のチャイムが鳴った。
 玄関に立っていた俺は、ろくに外の確認もせずに急いで扉を開ける。そこに立っていたのは俺の想像していた人とは大分違っていた。

「カレーライス大盛お待たせしました〜」

 カレー片手に笑顔で届けにきたのは、さっき食堂に居たあの銀髪の――凪さんの弟だった。
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bkm