伝説のナル | ナノ


8

「それでは実技訓練の詳細を説明する」

 今日から俺達Kクラスも実技訓練に入る事となった。
 何処となく、皆の表情は硬かった。魔導に苦労している分、こう言う実技訓練はやはり皆不得意なんだろう。かく言う俺もその一人だ。ドキドキと心臓が大きく波打っている。

「まずは各自、自分に合った武器を選んでもらう」
「……武器?」

 先生に武器と言われ、思うのは凪さんや那智先輩が持つ刀だった。すると隣に座る蓮が、コソッと耳打ちしてくれた。

「此処は慎重に選びなよ。自分の属性を上手く活かせる武器でないと、逆に形勢が不利になる事もあるし」
「自分の属性……」
「確か大樹は棍棒選んでたでしょ?土の属性を活かすには持って来いな武器だよ。例えば大地を叩き割ったりね」

 大地を叩き割る。それは凄い。そんな事出来るのかと一瞬思ったが、そもそも自分達は魔導士だし、何より大樹だったらそれも軽々遣って退けそうだ。

「此処に色々な武器が用意してある。各自、去年の実技での己を思い返しながら選べ」

 先生の言葉に、皆が一斉に近くにある武器保管庫に動き出した。
 俺も蓮も、ゆっくりとその後ろについて行く。

「そもそも宗介の属性って……雷、だっけ?」
「ああ、そうだ」

 けど、俺には凪さんの様に自分が刀を振るって動ける自信が無い。あれは凪さんや那智先輩だから上手く扱えるのであって、俺には向いていない。

「まあ属性と相性がいいのって言ったけど、自分が使えなきゃ意味ないし……取り敢えず、一度見て回ろうよ」
「そうだな」

 蓮の言葉に頷き返し、俺達は保管庫に足を踏み入れた。そこに綺麗に並べられている様々な武器に、俺は感嘆の息を漏らす。

「凄い……こんなに武器があるんだな」
「こんなにあったら迷っちゃうよね」
「そう言えば、蓮の属性は何なんだ?」

 それなりに一緒に過ごしてきたが、そう言えば俺は蓮が何の属性だか知らない。俺の問い掛けに、蓮はウッと息を詰まらせ、小さな声で呟いた。

「……水」
「みず……」
「何だよ笑うな!」
「わ、笑ってない。ただ周りに水の属性を持った人がいなかったから……」
「何言ってんの。清水が水属性だよ。それも凄い威力でさー。あっちは波とか操っちゃうほど力あるけど、俺なんか精々水道水の流れを少し変えられるぐらいだよ」

 そう言って蓮はたちまち肩を落とすが、俺は蓮の言葉に共感を覚えた。俺もだよ、俺も、凪さんの力に比べたらミジンコほどの力しか出せない。せめて気持ちが伝わればと、肩をポンッと叩いた。

「でも水って、何と相性いいんだ?」
「うーん、それが結構難しくてさ。去年はこの電気が流れる警棒を武器にしたんだけど、そもそも相手を感電させるほどの水が出せなくてさ……それに、俺程度の水、相手はどうにでも出来ちゃうって言うか……なら警棒当ててやれって思っても中々当てられなくて」

 そうか、そもそも当てられなきゃ武器としても使えないのか。そうなると、本当に色々考えさせられるなこの実技訓練。

「っと、そろそろ選ばないと時間がないよね。俺、向こう見てくる」
「ああ」
「あ、そうだ。因みに日比谷さんの武器はたぶん拳だよ。ナックルつけてるの去年見たから」
「ナックル……」
「情報はそんだけ。じゃあまた後で」
「ありがとな」

 向こうに走って行く蓮の姿を見送り、俺は俺で自分の武器を探す為に歩き出した。うーん、自分に合った武器、属性に合った、一体何を優先させて選べば……。

「日比谷さんはナックル、か」

 つまりは近距離の武器。遠距離は自分の力でどうにかするって事なのかな。
 でも、もしもの時、自分の力が頼れなくなったその時は。

「これは……」

 日比谷さんとはあれから顔を合わせていないし、結局まだどう言う人なのかも分かっていない。これは俺の余計な考えだけど、でも俺にはこれが一番合っている気がする。


「やっぱ、使い慣れたヤツのがいいよな」


 俺は、目的の物を、立て掛けられたそれを、手に取った。久し振りに触るそれに少し高揚感を覚える。
 俺が一年と言う短い期間だったけど、触れて来た――この弓に。
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bkm